観光業界では、「若者よりもシニア層を狙え!」というのが定説である。シニア層の方が旅行に行く時間もお金もあるから、というのがその理由だ。しかし、本当にそうだろうか? 星野リゾート代表の星野佳路さんはその定説に疑問を投げかける。(構成:斎藤哲也)
読者の反響が大きかった記事を、一部編集し再配信します。(記事初出時の公開日:2021年2月4日)

旅行消費の8割は国内旅行

星野リゾート代表が語る「若者は旅をしない」定説に潜む多くの落とし穴〈再配信〉星野佳路(ほしの・よしはる)さん
星野リゾート代表
1960年長野県軽井沢生まれ。慶應義塾大学経済学部を卒業後、米国コーネル大学ホテル経営大学院修士課程を修了。帰国後、91年に先代の跡を継いで星野温泉旅館(現星野リゾート)代表に就任。以後、経営破綻したリゾートホテルや温泉旅館の再生に取り組みつつ、「星のや」「界」「リゾナーレ」「OMO(おも)」「BEB(ベブ)」などの施設を運営する“リゾートの革命児”。2003年には国土交通省の観光カリスマに選出された。

 日本の観光産業には、イメージと現実の間に大きなギャップがあります。

 メディアや報道の影響もあって、3000万人を超える外国人観光客(インバウンド)が観光業界を支えていると思っている人が多いかもしれません。しかし「旅行消費額」という点で見ると、外国人観光客の占める割合は、2019年で17.2%。実に80%以上は、日本人旅行者の消費によるものなのです。

 この実態を踏まえると、10年後、20年後を見据えた観光産業の課題もおのずと見えてきます。今後、いくらインバウンドが伸びても、日本人の旅行者が減少すれば、観光産業はジリ貧です。

 では、10年後、20年後に国内を観光する中心は誰か。

 それはいうまでもなく現在の若者たちです。

 ところが観光産業では、「若い人は旅をしない」「若い人はお金を持っていない」が通説となっていて、サービスの矛先もシニア層に向かいがちです。実際、「大人の休日」や「シニア割引」はあっても、「20代の休日」や若者割引はあまり見かけません。そこには、人口も減少している若者向けのサービスをつくってもリターンが少ないという思考が働いているのでしょう。

 これが悪循環を生み出していることは言うまでもありません。観光業者は「若者は旅をしない」と思うから、シニア層中心のサービスとなる。シニア層中心のサービスになるから、ますます若者が旅をしなくなる。こうした負のスパイラルに陥ったままでは、持続可能な観光業の発展は望めません。

なぜ若者は旅をしないのか

星野リゾート代表が語る「若者は旅をしない」定説に潜む多くの落とし穴〈再配信〉Photo: Adobe Stock

 確かにさまざまな統計を見るかぎり、海外旅行に対しても国内旅行に対しても、若者の旅離れは趨勢的に進んでいます。

 例えば「若者旅行振興について」という観光庁の資料を見てみましょう。海外旅行の減少は20代の出国者数の減少やパスポート取得率の低下から見て取れますし、国内旅行についても年間宿泊数の減少や趣味の中で「旅行」が低位に甘んじていることなどから、その人気のなさがうかがえます。

 なぜ、若者は旅をしなくなったのか。

 さまざまな識者と議論するのですが、明確な原因はよく分かっていません。ただ、少なくとも国内旅行に関しては、旅行業界が若者たちのニーズに応えていないことは確かです。

 加えて、これは私の仮説ですが、中学や高校で体験する修学旅行があまり楽しくなかったことも影響しているかもしれません。私自身も修学旅行には、あまりいい思い出がありません。神社仏閣や名所など、お決まりのコースをバスで巡るだけで、記憶に残っているのは夜中に友達と騒いだことぐらいです。

 交通インフラの面でも、若者が移動しやすいようにはなっていません。新幹線は、料金が高くても速く移動したいビジネスパーソン用の乗り物ですから、時間は余っているけれどお金がない若者の利用には不向きです。若者が利用しやすい在来線は、むしろ減少しています。例えば、東京から電車で志賀高原(長野県)に行く場合、かつてはJR信越本線で碓氷峠(群馬県と長野県の間にある峠)を超えることができましたが、現在は北陸新幹線の一択しかありません。新幹線が整備されるに従い、若者の貧乏旅行はしづらくなっているのです。

「若者」は自分たちを「若者」とは思っていない

 そんな状況にあって、観光業界内で若者向けの旅行サービスの必要性を訴えても、反応はあまり芳しくありません。どうしても目先の利益を優先して、シニア層に目を向けてしまいます。

 かつての私たちもそうでした。20代では、星野リゾートに泊まったことのある人も少ないし、「値段が高い」というイメージが強かった。認知率も20代が一番低い。彼らにとって、「星野リゾート」はあまり親しみの持てるブランドではなかったわけです。

 ならば、自分たちから行動を起こそう。旅行市場の将来を担う若い人に国内旅行の楽しさを提案することで市場規模を維持し、高めていこうという思いで、13年に始めたのが「若者旅プロジェクト」です。

 これは、20代限定で星野リゾートが運営している温泉旅館ブランド「界」を、一律1万9000円の宿泊料金で提供するというサービスです。このプロジェクトは、19年に「界タビ20s(カイタビトゥエンティース)」という名称に一新し、SNSを使用したハッシュタグラリーを行うなど、若者に親しめるコンテンツを強化しました。利用者は増えていたのですが、18年の調査では、20代は自分たちのことを「若者」と認識していないことが判明し、名称を変更しました。彼ら・彼女らにとって、若者は10代だったのです。

 さらに19年には、「居酒屋以上 旅未満 仲間とルーズに過ごすホテル」というコンセプトで、「星野リゾート BEB(ベブ)」という若者向けのホテルブランドを、日本で初めて立ち上げました。

 現在、軽井沢(長野県)と土浦(茨城県)で稼働していますが、宿泊者が29歳以下なら、軽井沢は1室1万5000円、土浦は1室1万2000円です。3人で泊まれば、どちらも1人4000~5000円で泊まれます。この価格は年間通じて変わりません。実際、いつ泊まっても同じ価値を提供しているはずなのに、時期によって値段に変動があることに、特に若者たちは抵抗を感じている。そこで、年間を通じて一律の料金を設定しました。

 チェックインやチェックアウトの時間もルーズにし、食材やドリンクの持ち込みも自由。とにかく「ホテルの敷居」を下げて、気軽に足を運んでもらえる工夫をちりばめています。

 いまのところ結果は上々です。コロナ禍でも健闘を続けています。

 若者をターゲットセグメントとして真剣にアプローチしてみると、私たちにできることはまだまだあります