独特の社風から「あれは宗教だ」と競合他社に皮肉られることもある星野リゾートの経営を深掘りする「星野リゾート 異端の経営」特集の1回目。リゾートからカジュアルまで、さまざまなホテルを次々と成功させた同社のアイデアの多くは現場発で、中にはトップの反対を押し切って実現したものもある。なぜそんなことが可能なのか。(ダイヤモンド編集部 相馬留美)
トップが反対意見でも実行可能
成長を支える「現場発」のアイデア
「僕はいまだに反対なんです」――。
星野リゾート代表の星野佳路がこう言い切る施策が進行中だ。現場は青森県十和田市にあり、八甲田山に程近い、奥入瀬渓流ホテルである。
奥入瀬渓流ホテルは、星野リゾートが2005年にゴールドマン・サックスから運営依頼を受けて始めた再生案件の1つ。観光に適した秋は好調だったが、春、夏、冬は大赤字。そこで08年以降、最も赤字額の大きかった冬季にホテルを閉鎖していた。冬季の集客が困難な豪雪地帯に立地し、近くにスキー場はあったものの、地元客が中心で規模が小さかったからだ。
ただ、現場のスタッフは冬季に他の施設に行く“出稼ぎ”を強いられる。生活が安定しないことへの不満が噴出し、冬季開業の再開は現場の悲願となる。歴代の総支配人は「冬季開業再開」の要望を星野にプレゼンしては玉砕することを繰り返していた。
冬季の営業中止から9年。夏、春は黒字化を果たした。総支配人の宮越俊輔(当時)は、「運営の体力が安定した。冬季開業でも黒字化できる」と豪語。経営陣と議論を繰り返し、ついに星野が折れた。3年後の黒字化を目指し、17年から冬季の営業を再開したのだ。