各企業は、他社を追い越し、追い抜くために、マーケティングリサーチに勤しんでいる。にもかかわらず、店頭には似たような商品ばかりが並び、消費者は違いがあることすら気づいていないこともあるだろう。
いま、脳科学とマーケティングが融合した「ニューロマーケティング」が注目を浴びている。アンケートやグループ・インタビューからは読み取れない、言葉にできない消費者の“ホンネ”とは。「なんとなく」の正体に脳科学で迫る。

人生の一大事は「なんとなく」で決まっている

 「あなた、なぜ私と結婚したの?」
 「うーん、なんとなく」
 「なんですって?」
 「いや、まあ、なんというか、なんとなく好きになっちゃったんだな」
 「ひどい。あなたって、『なんとなく』で結婚を決めちゃう人なわけ?」
 「いや、そういうことじゃなくてさ、う~ん、料理がうまいし、当時は色白でぽっちゃりでかわいかったし」
 「…」

 今から20年近く前、私が独身生活を謳歌していた頃、とあるコピーライターの大先輩に、深夜残業の合間にこんな質問をしたことがある。

「先輩は、どうして結婚したんですか?」

 その時、ずっと年の離れたその大先輩は、ぼそっとこう答えた。

「田邊、結婚なんてのはだな、石につまずいて『おっとっと』と思ったらしてしまっている、そんなもんだよ」

 今や大会社の社長になられたその大先輩の言葉が、ここでいう「なんとなく」の本質をついている。極めて重要な決断こそ、本人が意識しないうちにすでになされている。その後に、いくらもっともらしい理屈をつけようと、それは“屁理屈”でしかない。

思考の95%は無意識下での自動処理

 ハーバード大学ビジネススクールの名誉教授、ジェラルドザルトマン博士によると、人間の思考(Thinking)の95%は無自覚に起こっているという。

 今、あなたが手に触れているマウスの感触、座っている椅子の右尻に感じている圧力や、かすかに聞こえている部屋のエアコンの音など、こうしている間にも、あなたの脳はたくさんの情報を取捨選択しながら最適な判断(お尻を掻いたり足を組み直したり)を下しているが、そのほとんどは意識に上がってくる前に自動的に処理されている。

 ところが、そこであえて「なぜ?」を問われると、この自動システムとは別の理性のしくみが動きだす。

 直感と理性、この2つが常に100%整合しているのなら、マーケティングはシンプルだ。しかし人間は必ずしも、無自覚の時の直感的判断と、自覚している時の論理的判断とが整合するとは限らないらしい。