約35億円のリニューアルキャンペーンが白紙に

 2009年、約35億円が投下されたトロピカーナジュースのパッケージリニューアルキャンペーンは、たった2ヵ月で中止され、オレンジの実にストローをさした従来のパッケージに戻された。

第1回 <br />人生の一大事は「なんとなく」で決まる<br />脳科学で挑む、95%の無意識左がオリジナル、右がリニューアル後
出典:Salih Kucukaga, Feb 25, 2009, “Tropicana goes back to previous design"
http://packagingworld.blogspot.jp
/2009/02/tropicana-goes-to-
previous-design.html

 パッケージをリニューアルした直後から、TwitterやFacebookでは、新しいパッケージに対する批難の嵐が「炎上」となって各所に飛び火し、ペプシコのマネジメントは、この変更が取り返しのつかないロスになりかねないことを予感したのである。

 世界有数のマーケティングエクセレントカンパニーであるペプシコが、アメリカ人の血とも言えるオレンジジュースのナンバーワンブランドのパッケージリニューアルを判断するために、消費者調査の1つも行なっていなかったとは考えにくい。

 おそらく新パッケージの受容性を裏付ける相応のデータがあったからこそ、この大英断が下されていたはずである。しかし、結果としては、このマーケティングエクセレントカンパニーをもってしても、人々の心の底にある「『なんとなく』イヤ」を見抜くことはできなかったようだ。

 北米トロピカーナ社社長(ペプシコアメリカビバレッジの一部)は、この出来事を振り返ってこう述懐している。

“We underestimated the deep emotional bond” they had with the original packaging.(我々は、元のパッケージが人々の感情に深く根ざした絆の存在を甘く見ていた)

「なんとなく」の正体を求めて

 このトロピカーナブランドを有するペプシコは、かつて「ペプシチャレンジ」というキャンペーンで、コカ・コーラに挑戦状を叩き付けたことがある。

 ブランドを隠した味覚調査で、コーラと互角、場合によってはコーラに勝る評価を得たというものだ。

 脳が味覚情報だけで選好の判断をしているとすれば、コーラとペプシとの勝敗はほぼ五分五分なはずである。しかし、シェアは圧倒的にコーラにあった。

 ベイラー大学のマクルーア博士とモンタギュー博士のfMRIを使った脳科学の実験が、この謎の種明かしをすることになる――。

次回更新は7月31日(水)を予定。


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第1回 <br />人生の一大事は「なんとなく」で決まる<br />脳科学で挑む、95%の無意識

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