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東芝から切り出された半導体メモリー事業を源流に持つキオクシアHDが、いまや時価総額約50兆円に達し、大きな存在感を示している。だが、東芝にはかつて、キオクシアだけでなく、液晶やPCなど世界で戦える技術資産がいくつもあった。赤字に沈んでいた東芝モバイルディスプレイもその一つだ。iPhone4向け高精細液晶と車載ナビ用液晶の供給危機を前に、経理畑出身の新社長、久保誠氏はどう会社を立て直したのか。※本稿は、久保 誠『東芝 転落の深層――経営不祥事と裁判』(朝日新聞出版)の一部を抜粋・編集したものです。
2010年6月 東芝モバイルディスプレイ社社長就任
6月末にTMD(東芝モバイルディスプレイ)本社へ出社した。TMD本社は従来は品川地区のビルにあったが、赤字縮小のため固定費削減を繰り返しており、本社事務所は東芝深谷工場[注1]の元部品倉庫だった場所を改装して使用していた。着任した時は6月末だったので気づかなかったが、倉庫だったため冬場は底冷えし、暖房を入れても暖かくならなかったため全員コートを着て仕事をしていた。
※注1 東芝深谷工場:かつてはカラーテレビ製造の拠点。製造の海外移転のため、ほぼ空き家となっている
会社借り上げの社長用アパートは徒歩30分程のところにある2DKであった。分社会社社長なので社用車が付くポジションであったが、これが社用車と渡されたのは後輪がパンクした自転車だった。
しかし業績は改善しており、赴任直前の5月度月次決算で単月決算が黒字となったことを知った。この黒字はアップル社のiPhone4向けの高精細の低温ポリシリコン液晶(LTPS液晶)の売上増によるものとの説明だった。アップル社はiPhone4用液晶から高精細のLTPS液晶を使用し始めた。
LTPS液晶は松下が開発した液晶で、iPhone4向けはTMDと韓国LGディスプレイの2社供給だった。高精細のLTPS液晶は、TMD社、LGディスプレイ両社にとって新製品であり、歩留まりがなかなか上がらなかったことが問題だった。特にLGディスプレイの歩留まりが上がらず、ほとんど出荷できなかったため、大半の注文がTMD社に集中したことが黒字化の大きな要因であった。
さらにアップル社は、好調なiPhone4の売上増に対応するため、増量部分はプレミアムをつけて購入してくれたため、月次業績の黒字幅はどんどん大きくなった。
一方、もう一つの主力商品である車載ナビ用液晶は、要求数量に対して大幅な供給不足をきたしていた。社長就任後順次顧客や重要供給先への挨拶回りを行っていたが、車載ナビメーカーでは、挨拶もそこそこに次の出荷はいつ、何個かとの話になり、何も分からない素人社長でも大変な状態のところに来てしまったと、その深刻さを実感した。







