客室の中身を、具体的に挙げてみましょう。
落ち着いた居心地のよいリビングと、それとは別に独立したベッドルーム。眺めの良いリビングからは、刻々と表情を変える景色が窓いっぱいに広がっています。
客室内には源泉掛け流しの露天風呂が備えられ、いつでも、人目を気にすることなく温泉に浸かることができる。冷蔵庫やラウンジバーに並ぶ飲み物は全てオールインクルーシブで、料金を気にせず手にできる。
ルームサービスやアメニティーの追加・交換は、客室外に備えられた専用の受け渡しボックスを介して行われる仕組みで、スタッフと顔を合わせる必要すらない。そしてマッサージチェアまでが、当たり前のように客室に設置されている宿も増えています。
食事も、同じ思想で組み立てられています。全ての客が同じレベルの会席や同じコースを、半個室や個室で、プライベートを保ったままいただく。誰かが特別なメニューを注文して、ほかの客がそれを横目で見る、という構図そのものが、最初から存在しません。
ここには、客同士に階層もピラミッドもありません。だから「マウントを取る」必要も、「自分を演じる」必要もない。
ただ日常から完全にログアウトして、自分のリズムで時間を過ごせる。これが、本物の富裕層が求めている、滞在の形なのです。
旅行好きの富裕層の方々が当社の執事やコンシェルジュに依頼する際に好まれる部屋のタイプを見ても、「露天風呂付き」が約半数でダントツの1位、対して、「スイートルーム」は1割程度にとどまります。「豪華さ」よりも「自分のペースで深く休める体験」を求めていることが、データからも見て取れるのです。
「顕示的消費」から
真逆の「目立たない消費」へ
なぜ、本物の富裕層はここまで「目立たない場所」を求めるのでしょうか。
経済社会学者ソースタイン・ヴェブレンは、1899年の古典『有閑階級の理論』の中で、富裕層が地位を示すために行う「顕示的消費(conspicuous consumption)」を理論化しました。高価なものを目立つ場所で見せるように消費することで、自分の地位を社会に主張する、という構造です。







