それは主義? はたまた事情??
「AかBか」という主義が分かれそうなトピックをあらためて考える、人気エッセイストの古賀及子さんによる書き下ろし新刊『暮らしの信じ方』から、抜粋・再構成し公開します。(構成/ダイヤモンド社書籍編集局)

暮らしの信じ方Photo: Adobe Stock

仕事を終えてまっすぐ家に帰ってしまうのがもったいなかった20代前半

 終わったら、すぐに帰る。
 仕事場では、作業が片づけばさっさと帰る。
 打ち合わせも、終了次第直帰する。

 出張に出かけても、要件がすめばもう帰る。予約しておいた特急電車の時間を、前倒しすることもよくある。
 子どもたちの学校の保護者会だって、終わったらためらいなく帰る。
 ライブや観劇に行けば、終演後は一目散に駅に向かう。

 仕事も私用も、公私ともに、帰る。
 以前はこうではなかった。もっとねばって、余白の時間を楽しんだ。

 二十代前半のころ、仕事を終えてまっすぐ家に帰ってしまうのがもったいなくて、退社後にカルチャーセンターにダンスを習いに通った。
 モダンダンスのクラスで、何年か続けた。覚えが悪く、いつまでたってもほかの受講生のように踊れるようにはならなかった。それでも柔軟性がついたし、中学校でも高校でも運動系の部活に入らなかった私にとって、基本的な体の動かし方はこのクラスで身につけたように、今になってみれば思う。

 受講者は多くが継続して受講する常連で、通ううちにどうしたって顔見知りになる。終えて着替えると、そこからさらにみんなで食事に行くこともあったくらいだ。ぜんぜん帰っていない。

20代後半でも博打みたいな帰らなさを発揮

 二十代の後半に、その後長く勤める会社に就職した。会社帰りは同僚とよく飲みに出かけて、平日のど真ん中でも平気で二軒目まで行った。やっぱり、今のようには帰らない。

 打ち合わせで取引先の会社をたずねる際は、普段は行かない街へ行く格好のチャンスだ。事務所に戻らなくてもいい、そのまま自宅に直帰していいスケジュールであれば、帰る前に周辺をぶらぶらした。駅ビルに書店でも入っていれば、ラインナップをながめに行った。

 出張が入れば、それなりに余裕のあるスケジュールにしておいて、仕事が終わればせっかくの旅なのだから、地元の何かおいしいものを食べようとか、すこし足を延ばして名所に行ってみるくらいはしたと思う。

 一度秋田に出かけたときは、秋田駅から、運行本数の少ないバス路線でしか行けない温泉地にどうしても行きたくて思い切って出かけてしまい、もし帰りのバスを逃したら飛行機に乗り遅れるという、博打みたいな帰らなさを発揮した(間に合った)。