車の運転をなかなかやめてくれない高齢の親。事故を起こしてしまうのではないか…との不安から「そろそろ運転をやめて」という人が多いと思いますが、親を思っての言葉なのに反発されてしまうケースが多いようです。
実は、伝え方を少し変えるだけで、親に自分から「運転を控えよう」と思ってもらえる可能性があります。
佐々木圭一さんに、高齢の親に免許返納を考えてもらうための「伝え方」を教えてもらいました。(構成 伊藤理子)

「もう運転やめて」は逆効果だった…高齢の親が自分から免許返納を考える一言とはPhoto: Adobe Stock

「一緒に○○しよう」は相手の心を動かす魔法の言葉

現在、戦後の第一次ベビーブーム時代に生まれた「団塊の世代」が70代後半を迎え、後期高齢者となっています。そろそろ車の運転も怪しくなってくる年代ですが、免許返納を推奨されても今まで通り運転を続ける人が少なくないようです。そして、そんな高齢の親に気を揉んでいる団塊ジュニア世代もきっと多いことでしょう。

高齢者の多くは「自分は健康だし、安全運転もしているから問題ない!」と主張しますが、認知機能や反応速度はどうしても低下してしまうもの。若い人に比べれば、どうしても事故を起こす確率は増えてしまいます。実際、帰省時に久々に親が運転する車に乗り、ヒヤっとさせられた…という声をよく耳にします。

子どもとしては、親が心配だし他人を傷つけるような事故を起こしてほしくない。「そろそろ返納して!」と言いたくなりますが、日常的に車を運転してきた人にとっては、免許返納は大きなハードルです。「何でそんなこと言うんだ!まだまだ運転できるよ」と反発され、ケンカになってしまうケースも多いようです。

ではどのように言えばいいのか。例えばこのような伝え方がお勧めです。

×「危ないから免許返納して!」
○「出かけるときは私が連れて行くよ。その分、一緒にいられる時間が増えると私も嬉しいんだけど、免許返納してくれない?」

これは伝え方の技術「チームワーク化」を使った伝え方です。人は「一緒に~」と言われると嬉しさを覚え、その話に乗ってもいいかなと思いやすくなります。

この伝え方の技術を、話の前半に組み込むのもポイントです。親にとっては、子どもに連れて行ってもらうのも、一緒にいられる時間が増えるのも嬉しいこと。自然とポジティブな気持ちになり、その後に続く話をフラットに聞き入れやすくなります。

免許返納というセンシティブな話は、普通に伝えても納得が得にくいものです。感情的にさせて話をこじらせてしまうと、その後なかなか聞く耳を持ってもらえなくなる恐れもあります。伝え方の技術をうまく活用することで、親のほうから前向きに「ならば返納しようかな」と思ってもらえるようになりますよ[松山2.1]。

高齢の親への伝え方で気をつけたいポイント

高齢になると、運転だけでなく日々の生活においても危なっかしいと感じる場面が増えます。子どもとしてはそんな親が心配で、つい感情をぶつけがちになりますが、ストレートに思いを伝えてしまっては反発を招くだけです。
高齢の親に対して指摘したり、お願いしたりする際には、特に次のポイントに気を配ることをお勧めします。

●ポイント1:「やって」ではなく「一緒に」を使う

子どもに対して「勉強しなさい!」とガミガミ言っても逆効果であるのと同様に、親に対して「これをやって!」と指示すると、「子どもに行動を管理されている」と感じ、カチンとくるものです。たとえそれが正論であっても、「上から目線で指示しないで!」と反発したくなるでしょう。

チームワーク化の技術を使い「一緒に○○しよう」と伝えると、上下関係ではなく同じ立場であることが伝わります。否定ではなく「伴走」のニュアンスが強まるので、前向きに話を聞いてもらいやすくなるでしょう。

●ポイント2:正しさより「相手の感情」を優先する

正論で、人は動きません。「脂の取り過ぎは身体に悪い」と言われても揚げ物は美味しいし、「塩分が多いからやめて」と言われても、ラーメンの汁は最後の一滴まで飲み干したい。正しいことは十分わかっていても、自分の感情を優先してしまうのが人間。年を取るとよりその傾向が強まるとも言われています。

だからこそ、「正しいこと」よりも「受け入れられる言い方」を選ぶことが大切です。親が相手であっても、口に出す前に「こう言われたらどう思うだろうか?」と考える習慣をつけてください。

親に限らず、何か相手に伝える際には、相手の頭の中を想像してみる。ちょっと想像すれば「この伝え方のままでは反発されそうだな」「動いてくれそうにないな」と気づくことができ、相手が受け入れやすい言葉を選べるようになるはずです。

●ポイント3:相手のプライドを守る

人は高齢になればなるほど、承認欲求が強くなると言われています。親を心配しているからこその指摘であっても、「否定された」と受け取られ、怒りを招く恐れがあります。

例えば、夜になっても洗濯物を干しっぱなしで取り込んでいなかった場合、不安になって「以前はできていたのに…なんでできないの!?」と言ってしまいたくなると思いますが、そのまま伝えるとバカにされた、批判されているなどと感じ、心を閉ざしてしまうかもしれません。

このような場合は、相手のプライドを守り、「できていない」ではなく「できている」を起点に伝え方を組み立てるといいでしょう。
伝え方の技術「認められたい欲」を活用し、「なんでできないの?」ではなく「洗濯物を干して乾かすまでちゃんとできているね!」とまず認めてから、「もう夜だから一緒に取り込もう」と「チームワーク化」すると、相手のプライドを傷つけずに行動を促すことができます。

●ポイント4:不安を刺激しすぎない

例えば親に免許を返納してほしい場合、「誰かをはねてしまったらどうするの!」「事故を起こしたら補償はどうするの!」など不安をあおる伝え方をする人は少なくありません。もちろん、人によってはそういう言い方のほうが効くケースもありますが、高齢者が相手の場合は不安ばかりが増幅してしまい、その後の「免許を返納してほしい」という提案が耳に入らなくなる可能性があります。

「このままだと危ない!」と不安をあおるのではなく、「こうすると安心だよ」という伝え方をしたほうが、話を聞き入れてもらいやすくなります。免許返納の場合も、「事故を起こす前に返納したほうが、お父さんも安心だよね」などと伝えたほうが、同意を得やすくなるでしょう。

■伝え方の技術「チームワーク化」は、特にネガティブな場面で活きる

免許返納と同じぐらい悩んでいますと言われるのが、「親がなかなか病院に行ってくれない」こと。明らかに調子が悪そうなのに、「自分のことは自分が一番分かっている!病院なんか行かなくて大丈夫!」と拒否されてしまう…と悩む団塊ジュニア世代は少なくありません。

この場合も、伝え方の技術「チームワーク化」が効果を発揮します。例えば、次のように伝えてみてください。

×「病院に行って!」
○「インフルエンザの予防注射をしたいから、一緒に病院に行かない?」

繰り返しになりますが、「一緒に」と言われるだけで人は嬉しいのです。その後の提案を受け入れやすくなります。子どもから「一緒に行かない?」と言われれば、嫌いな病院であっても「一緒ならば行ってもいいかな…」と思い直してくれるでしょう。

この「チームワーク化」の技術は、いろいろな場面で使える汎用性の高い技術であり、「一緒に」は相手の気持ちをガラリと変える魔法の言葉です。特に、反発している相手を動かさなければならない場面、トラブル含みの場面などで力を発揮するので、困難な時こそぜひ。