全世界45言語に翻訳され、累計600万部を突破したことで大きな話題を呼んでいる書籍がある。俳優や作家として活動する松井玲奈さんは、その本に描かれたエピソードに触れ、「環境や思い込みに縛られず、自分で状況を変えていくことの大切さを改めて感じた」という。
本連載では、松井さんに表現者としての現在地、そして迷いながらも進み続ける原動力についてインタビューした内容を全4回でお届けする。第3回では、やりたいことを見つけ、挑戦し続けるための思考法について話を聞いた。

【やりたいことを見つける方法】幼少期の経験が、人生に大きな影響を与える納得の理由Photo: Adobe Stock

「ゴルフボール」が教えてくれた思考のスイッチ

――これまでのインタビューでは、本書に登場する「ウミガメ」「広告業界で働く女性」の話を読まれた感想を中心に、やりたいことに挑戦する姿勢や不安を克服する方法について教えていただきました。その他にも心に残ったエピソードはありましたか。

松井玲奈(以下、松井):「ゴルフボール」のエピソードは今の時代を生きる皆さんに響くのではないかと感じました。

 何年もの間、ゴルフで難しいショットを打つ夢を見ることに悩んでいた男性の話です。窓枠の上や大きな岩の斜面など、とにかく変な場所に置かれたボールが、打とうとするたび位置を変えてしまう……。

 彼は逃れられない苦しみの中にいました。でも、イライラが限界に達したとき、彼は「自分でボールを好きな場所に置き直せる」ことに気づくんですよね。

「周囲の環境」や「こうあるべきだ」という狭い考えに縛られるのではなく、自分の置かれている状況は自分の手でコントロールできる。その気づきこそが、人生を動かす鍵なんだと思いました。私たちの日常生活にも当てはまる、とても大切なメッセージですよね。

 例えば、誰かから悩み相談を受けたとき、本人は「どうしようもない」と深刻に考えていても、俯瞰して見ると「実は解決策はシンプルなのに」と感じることがあります。自分自身で「できない理由」を積み上げて、見えない壁を作ってしまっていることが多いんです。

 どんなに難解に見える問題も、細かく分解していけば意外とシンプルになります。もし手元にボールがあるのなら恐れずにポンと動かしてみる。そうすることで周りの景色が変わり、新しい道が見えてくるはずです。

小学校の先生が教えてくれた「やりたいこと」の見つけ方

――そもそも、これまでのご経歴の中で、やりたいことに挑戦していくという姿勢はすぐに身についたものだったのでしょうか。

松井:昔から「やりたいことしかやりたくない」という、ある意味で頑固な子どもでした(笑)。ですから、やりたいことが見つからなくて迷うということは、あまり経験してこなかったです。

 印象に残っているのが、小学校高学年の頃に受けた「進路に関する」授業です。「将来やりたいことについて考えてみよう」というテーマでした。私の場合、お芝居などを通じて「何かを表現したい」という欲求が強かったです。学芸会でも「絶対に主役をやる!」と意気込むタイプでした。好きなもの、のめり込めるものが自分の中にしっかりあったんですよね。

 でも、クラスメイトの多くは目標を定められずに困っていました。その様子を見ていた担任の先生が、「まずは絶対にやりたくないことを書き出してみなさい」と言ったんです。そして「やりたくないこととして書いたもの以外は、全部やってもいいと思えることだ。その中で色々と挑戦を続けていけば、いつか本当に好きなことや、やりたいことが見つかるかもしれないね」と。

 この逆転の発想は今の私の原点にもなっています。

――ちなみに、その当時の松井さんが「絶対にやりたくないこと」として何かリストに書かれたものは?

松井:……「集団行動」でした(笑)。

 みんなで連れ立って移動したり、ご飯を食べたりするのが、どうしても苦手だったんです。

 私にとって休み時間は、次の授業に向けて自分をリセットするための大切な時間。それなのに「いつ行く?」「早く行こうよ」とペースを乱されるのが、ちょっとだけ煩わしかった。「私はこのページを読み終えてから移動したいんだ」というマイルールが、自分の中に強くあったんですね。

 食事もゆっくり自分のペースで楽しみたいタイプだったので、周りに合わせると「食べている気がしない」と感じてしまって……。それほど集団行動が苦手だったのに、後にアイドルグループに入るという決断をしたのは自分でも不思議です(笑)。

 実は、東京でお芝居の勉強がしたいと両親に伝えたときは、「さすがに将来が心配だから」と何度もぶつかりました。何度も議論した末に、「資格を取れる高校に進学し、無事に卒業できたら芸能の道に進んでいい」という条件を出されたんです。やりたいことのためなら、どんなミッションでも乗り越えてやる、という思いで必死に勉強して資格を取りました。

 でも、夢を叶えるためには少しでも早く行動した方がいい。

 そう思って、高校在学中に両親に内緒で事務所に履歴書を送ったんです。とんとん拍子でオーディションも通過して、SKE48としての活動の始まりでした。両親は「まさか受かるわけがない」と高を括っていたようですが、思わぬ展開に驚いていましたね(笑)。

 アイドル活動を続けるにあたり高校は変わってしまったので、イレギュラーな道ではありました。

 とはいえ「やりたいことのために順序を立てて、目の前の課題を一つずつクリアしていく」というプロセスは、親から学んだ大きな知恵でした。

――小学校時代の授業や、アイドルを目指すにあたっての葛藤があったからこそ、やりたいことに向かって挑戦し続ける姿勢が身に付いたんだと感じました。

松井:それこそ「ゴルフボール」のエピソードに書かれていた文章が心に響きました。

人生において自分が何を望んているのかを本当に知るのは自分自身だけだ」

「自分の運命を自分でコントロールできないと感じるほどまで、物事や人に振り回されてはいけない」

 やりたいことがあるけど、なかなか足が進まない理由は、環境や目の前にある膨大な情報やタスクに振り回されて、思考を整理できていないからかもしれません。

 私は、このゴルフボールを「頭の中にある正体不明のモヤモヤ」と解釈しました。モヤモヤをきちんと言葉にした瞬間、ようやく手でボールを掴めたような感覚になる。それが変化の始まりではないでしょうか。

――改めて、『世界の果てのカフェ』をどんな人に薦めたいですか?

松井:私の周りにも、プレッシャーで自分をうまく表現できない方や、やりたいことがあるのに踏み出す勇気がないという方がいます。そういう人には、最近「とにかく、この本を読んでみて!」と全力でオススメしているんです。

 実際に「悩んでいたことの答えが見つかった」「仕事への考え方が楽になった」という声をもらうと、薦めて本当に良かったなと感じます。

 私自身これからも人生の節目で何度もこの本を開くと思います。そのたびに新しい「気づき」がきっとある。心が不安で揺れそうになったとき、いつでも立ち返れる場所として、ずっと大切に手元に置いておきたい一冊です。

(本稿は、ジョン・ストレルキー著『やりたいことが見つかる 世界の果てのカフェ』<鹿田昌美訳>に関連した特別インタビュー記事です)

【やりたいことを見つける方法】幼少期の経験が、人生に大きな影響を与える納得の理由松井玲奈(まつい・れな)
1991年生まれ、愛知県出身。2008年デビュー。
近年の主な出演作は、舞台「ハリー・ポッターと呪いの子」、大河ドラマ「どうする家康」、連続テレビ小説「おむすび」ほか。
2019年に小説家デビューし、作家としても活動中。
最新作は『ろうそくを吹き消す瞬間』。