全世界45言語に翻訳され、累計600万部を突破した書籍が大きな注目を集めている。刊行から20年を経た現在も、世界で19秒に1冊のペースで売れ続けている話題の一冊だ。
俳優、そして作家として多彩な表現を続ける松井玲奈さんも、その本に描かれたエピソードに触れ、自身の仕事観や「挑戦」への向き合い方を改めて見つめ直したという。表現者としての現在地と迷いながらも進み続ける原動力についてインタビューした内容を、全4回でお届けする。(企画/黒澤史帆、取材・構成/井黒考信)

「ものすごく心配性なんです」不安に押しつぶされそうだった松井玲奈の心に響いた「ウミガメの話」とは?

「こんなの答えられないよ」と思った3つの質問

――松井さんが運営されているYouTubeチャンネルで、この『やりたいことが見つかる 世界の果てのカフェ』(ジョン・ストレルキー著/鹿田昌美訳)を読んだ感想を紹介してくださっている動画を拝見しました。その中で、「人生に対する考え方が根底から覆る」「今すぐ、やりたいことに挑戦することは大事なのではないか」と語られていたのが印象に残っています。
 そこで今回、改めて本書を読まれた感想や、松井さんの人生観に与えた影響などをお伺いしたいと思い、お時間をいただきました。まずは、本書に対する第一印象からお聞かせいただけますか。

松井玲奈(以下、松井):ダイヤモンド社さんの本といえば、どこか「硬派なビジネス書」というイメージが強かったので、タイトルを見て、論理的に道筋を示してくれるハウツー本なのかな、と思って手に取りました。

 効率的に「人生の悩みを解決するメソッド」を学ぶつもりでページをめくり始めたのですが……良い意味で、その予想は裏切られました。

――実際に読み進めると印象は違ったと?

松井:言葉の一つひとつが、まるで詩のように美しくて。冒頭の「カフェですごした夜が、ぼくの人生を変えた」という一文を読んだ瞬間、本の世界にグッと引き込まれてしまったんです。「これは単なる解説書じゃなく一つの物語なんだ!」と衝撃を受けましたね。

 物語として読み進められるのなら、これまでのビジネス書とは全く違う感覚で、もっと心に深く届くかもしれない。そう思うと、なんだかワクワクしてきたんです。それに私、食べ物が出てくる物語やエッセイには目がなくて(笑)。どんなメニューが出てくるんだろう、どんな場所が舞台なんだろうと、想像を膨らませながら読み進めるのが本当に楽しくて。

 ストーリーが進むと、休暇中の主人公がふらりと「しつもんカフェ」に立ち寄りますよね。そこで手渡されたメニューの裏に、あの「3つの質問」が書かれている……。

 「あなたはなぜここにいるのか?」
 「あなたは死を恐れるか?」
 「あなたは満たされているか?」

 「これから一体、彼の身に何が起こるの?」という期待感で、もうページをめくる手が止まらなくなってしまいました。

――「3つの質問」を自分ごととして受け止めたとき、どのような考えになりましたか。

松井:正直なところ……最初は「うわっ、こんなの難しくて答えられない!」って思ってしまいました。

 「なぜここにいるのか?」という問いは、自分に引き寄せて考えることができました。これまでの歩みを振り返り、これから先のキャリアで何を成し遂げたいのか、自分の「現在地」を再確認する大切なきっかけになりましたね。

 一方の「死を恐れるか」「満たされているか」は、つい日常では避けてしまうような鋭い質問ですよね。

 でも読み進めるうちに、この3つの質問はバラバラではなく全てが深く繋がっているんだと気づいたんです。最後には、ひとつの大きなメッセージとしてストンと腑に落ちました。

人生の本質を教えてくれる「ウミガメ」

――本書の中で、「ウミガメ」のエピソードが印象的だったという声が多くの読者から届いています。

松井:「ウミガメ」のエピソードは、一度読んだだけでは自分の中にきちんと落とし込めていない気がするほど深みがありました。

 ハワイでシュノーケリングを楽しんでいた女性が、海中でウミガメを見つけて追いかけるのですが、懸命に泳いでも波に押し戻されて追いつけないという話です。

 彼女は水の方向を無視して夢中になって足をばたつかせていた…。次々に押し寄せる波に抵抗を続けて、どんどん疲れていくんです。でもウミガメは、自分の動きを波の動きに合わせて優雅に進んでいきました。

 人生にも、「前から向かってくる波」「背後から押してくれる波」という2つの波が存在することを教えてくれています。何に対して自分の限られた時間とエネルギーを注ぐべきか、その見極めを間違えてはいけないという教訓は、今の私に強く響きました。

 実を言うと、私はつい流れに逆らってしまうタイプなんです。あえて厳しい「茨の道」を選んでしまう。逆境に立ち向かいすぎて、いつの間にか心も体もいっぱいいっぱいになってしまうこともあって……。だからこそ、時には力を抜いて「流れに身を任せる」というマインドも必要なんだとハッとさせられました。

――流れに逆らって行動し、もし失敗したら振り返る。松井さんは無意識のうちにちゃんと波に乗っているんだと感じます。

松井:もし上手くいかなかったら、潔く方向転換して元いた場所から出直せばいい。そう考えるようにしています。仮に挑戦して壁にぶつかったとしても、その原因を分析するのは嫌いではないんです。

 「失敗」とは、未来への「余白」が残っている状態。原因を一つずつクリアしていく作業には、どこか楽しさも感じています。

 私、ものすごく心配性なんです。特に舞台や生放送といった、やり直しのきかない「瞬間を届ける仕事」のときは、本番ギリギリまで「どうしよう、大丈夫かな」と不安を口にしています。

 でも以前、「大事な場面では、不安に思うほうが脳科学的に正しい」と書いてある本を読みました。不安だからこそ、脳がフル回転して「どうすれば対処できるか」を無意識に考えてくれる。不安を認めることは、成功の確率を上げるそうです。

――松井さんの最新エッセイ『ろうそくを吹き消す瞬間』(KADOKAWA刊)を拝読して、「バットは振らなければ当たらない」という言葉を使っていらっしゃるのが印象的でした。「やりたいことはやる」という姿勢が、その言葉に表れている気がします。

松井:これまでのキャリアを振り返っても、「打席に立たなければ何も始まらない」という思いがありました。だからこそ、『世界の果てのカフェ』を読みながら「本当その通り!」と納得する部分が多かったです。

 やりたいことに向かって一歩を踏み出すのは、確かに勇気がいります。でも、まずは「うまくいった未来」を想像して動き出してみる。もし失敗したとしても、リカバリー方法を考えておけば過度に恐れる必要はありません。そうした準備があるからこそ、物事に前向きな姿勢で向き合えるんだと感じています。

――まさに「ウミガメ」のエピソードにも共通するポイントだと感じます。

松井:「ウミガメ」のエピソードの中で、「人は、自分がなぜここにいるのか、つまり存在理由を知れば、それを満たすことに時間を費やせる」という一文が出てきますよね。

 たとえば日常でも、目の前の仕事に集中しないといけないはずなのに、ついⅩやYouTubeを眺めてしまったり、あるいは重要ではない雑談に長い時間を使ったりして後悔することがあります。

 自分とは関係のないことに過度に時間を費やして、本当にやりたいことのために使う時間やエネルギーが残っていない状態は本末転倒です。

 「前から向かってくる波」に無駄な体力を使わず、やりたいことのために「背後から押してくれる波」を利用する姿勢を忘れないようにしていきたいですね。

(本稿は、ジョン・ストレルキー著『やりたいことが見つかる 世界の果てのカフェ』<鹿田昌美訳>に関連した特別インタビュー記事です)

松井玲奈(まつい・れな)
1991年生まれ、愛知県出身。2008年デビュー。
近年の主な出演作は、舞台「ハリー・ポッターと呪いの子」、大河ドラマ「どうする家康」、連続テレビ小説「おむすび」ほか。
2019年に小説家デビューし、作家としても活動中。最新作は『ろうそくを吹き消す瞬間』。