AIの登場で、「頭のいい人」「仕事のできる人」の定義が変わった。知識量も、処理の速さも、論理的に話す力も、多くはAIが肩代わりしてくれる時代になったからだ。では、これからの時代に本当に価値を持つ「仕事のできる人」とは、どんな人なのか。会社を上場させ、たくさんの優秀な人と働いてきたなかで見えてきた答えは、意外なものだった。アパレル史上最年少で上場した株式会社yutori社長・片石貴展氏が、新刊でその正体を明かしている。(構成:ダイヤモンド社書籍編集局/淡路勇介)

自分の言葉で話せるようになりましょう。Photo: Adobe Stock

仕事のできる人は、人を「動かそう」としない

優秀な人ほど、人を力強く引っ張っていく。
そう思っていた。だが、片石氏が上場までに何百人と働くなかで気づいたのは、その逆だった。
人がついてくる人ほど、実は、動かそうとしていない。
これが、本当に仕事のできる人のベスト1の特徴だ。

人を動かそうとも、コントロールしようともしていない。なのに、勝手に人が動き、勝手に人がついてくる。

考えてみれば、仕事ができそうに見えて実はそうでない人ほど、人を思い通りに動かそうとする。
正論で詰める。指示を出す。自分の正解に相手を近づけようとする。片石氏は、これを「管理」と呼ぶ。

マネジメントの意味は“管理”です。つまり、コントロールするということ。(中略)上司が思い描く正解に部下を近づけていく作業とも言えるでしょう。
――『自分の言葉で話せるようになりましょう。』より

コントロールは、短期的には効く。だが、動かされた側は「やらされている」としか感じない。だから続かないし、心から動くこともない。仕事のできる人は、これが遠回りだと知っている。

動かそうとしないのに、なぜか人が動く

では、人を動かそうとしない人のまわりで、何が起きるのか。
おもしろいことに、動かそうとしないほど、人はその人のために動く。
指示されるのではなく、自分で考えて動きたくなるのだ。

その差がどこから生まれるかといえば、相手の「意識」がどこを向くか、である。
正論で詰められると、部下の意識は「上司の顔色」に向かう。上司が満足する答えばかりを探すようになる。
反対に、仕事のできる人は、相手の意識を相手自身に返す。
片石氏は、指示を出す上司を「俺を見ろ」型、部下自身に意識を向ける上司を「お前を見ろ」型と呼び、後者をこう説明する。

“お前を見ろ”タイプの上司の元では、部下は自ら考えるようになります。自分で考え、自分の言葉で答えを出していく。
――『自分の言葉で話せるようになりましょう。』より

自分で考えて出した答えだから、人は納得して動く。
誰かに動かされたのではなく、自分で動いた、と感じられる。
仕事のできる人は、この「自分から動きたくなる状態」を作るのがうまいのだ。

コントロールを手放せる人が、AI時代に生き残る

会社が大きくなるほど、一人でコントロールできる範囲などたかが知れている。
全員を管理しようとした瞬間に、組織は止まる。だからこそ優秀な経営者は、コントロールを手放す。
指示ではなく問いを渡し、答えではなく余白を渡し、相手が自分で動き出すのを待つ。

そして、この力こそ、AIには代われないものだと思う。
速く答えを出すことも、論理を組み立てることも、これからはAIがやってくれる。だが、目の前の人の心が自ら動き出すのを信じて待つことは、人にしかできない。
本当に仕事のできる人が持っているのは、キレる思考でも、完璧な正論でもない。人を思い通りにしようとする欲を、手放せる強さだ。

動かそうとするほど、人は動かない。動かすのをやめたとき、人は勝手に動き出し、勝手についてくる。びっくりするほど仕事のできる人は、それを知っているのだ。

(本稿は、『自分の言葉で話せるようになりましょう。』の一部を引用したオリジナル記事です)