ワインを飲んで「美味しい」とは思っても、その味をどう表現していいか分からない。複雑な銘柄や産地を暗記するのも苦手。そんな悩みを抱えていませんか。実は、専門用語を暗記しなくても、地図を開いて「海側か、山側か」を確認するだけで、ワインの味は論理的に予測できてしまいます。暗記に頼らず、ワインの味わいを決定づける地理的な法則を解説します。(構成/ダイヤモンド社書籍編集局)

「ワインの味がわからない…」地図を見るだけで味が予測できる、たった1つの視点Photo: Adobe Stock

太陽と酸のバランス

少し科学の話をすると、ワインの味の基本は「太陽の光(糖分)と、それを引き締める冷涼さ(酸)」のバランスといえます。

ぶどうの糖分がアルコールに変わるため、光をたっぷり浴びれば度数は上がり(=ボディは重くなり)ますが、暑すぎると呼吸によって大事な酸味が落ちてしまいます。

逆に酸味が残ればボディもそこまで重くは感じません。

赤ワインにおいては、太陽はもう一つの魔法をかけます。

渋み(タンニン)の成熟です。

例えば、まだ青くて渋い柿が、お日さまを浴びてとろとろに甘く、なめらかになるのを想像してみてください。

ぶどうも同じです。

太陽をたっぷり浴びて健康に育ったぶどうは、渋みの角が取れ、絹やベルベットのような心地よい口当たりに変わります。

地図が教える冷涼因子

複雑で長期熟成に向く高品質ワインの産地には、ほぼ例外なく、熟度を待ちながらも酸を守るための冷涼因子があります。

そうでないと、果実が熟して糖度だけ上がっても、良いフレーバーが発達しないのです。

だからこそ、プロは気候や地形などを見て、ぶどうを冷やすメカニズムがあるかをひそかに確認します。

味わいに関していえば、以前は「旧世界=エレガントで繊細、新世界=パワフルで果実味たっぷり」というイメージがありましたが、今は新旧の差よりも、地理的な差で考えるほうが、味わいの大筋を予測しやすくなります。

例えば、次の3つは、世界中の産地に応用できる分類です。

海・山・平野の法則

【海・水源の産地】抜け感のある、みずみずしい味(例:スペインのリアス・バイシャス、ニューヨーク、日本ワイン)

(プロの視点)海や湖などの「巨大な水たまり」による温度調節機能、程よく湿潤な気候がポイント。
水源からの湿気や適度な雨によって過酷な乾燥ストレスから守られたぶどうは、果実味が凝縮しすぎず、アルコールが穏やかで透明感のあるみずみずしい味わいになりやすいといえます。
【山・高地の産地】凝縮感のある、ぎゅっと厳しい味(例:スペインのプリオラート、チリのアンデス山麓)

(プロの視点)キーワードは、標高と激しい寒暖差とストレスです。
標高が高い内陸部では、大陸性気候により夜になると気温が急激に下がり、その寒さがワインの背骨となる酸をキリッと引き締めます。
さらに痩せた土壌が果実にエネルギーを集中させ、強い紫外線がぶどうの皮を厚くすることで、色や渋みも力強く凝縮したストイックな味わいになる傾向があります。
【平野・谷底の産地】フルーティーでおおらか、飲みやすい味(例:チリのセントラル・バレー、フランスのラングドック)

(プロの視点)温暖で肥沃な土地が多く、ぶどうがストレスなく均一に熟すため、太陽の恵みを感じるおおらかなスタイルになりやすいです。
平坦で機械化しやすく、毎日の食卓に寄り添うコストパフォーマンス抜群のワインの宝庫!
もちろん、同じ平野でも局地的な気候を活かし、素晴らしい高級ワインを造る生産者も多数存在します。

ミステリーもロマン

もちろん例外はありますが、地図を見て「海側か山側か」「どんな冷涼因子があるのか(ないのか)」と考えてみると、ワインリストの解像度は一気に上がりますよ。

同時に注意したい点もあります。

これまでロジカルに説明してきましたが、ワインには「こうだからこう!」とは一概にいえない不確定要素が多すぎるのです。

私も「答え」を求めて、よく取材相手になぜなぜ攻撃を仕掛けては、「うーん、色々絡んでいるからねぇ……」とあきれ顔をされます。

原因→結果の「正解」を求めすぎず、さまざまな要因を考えること。

あるいは、あえてわからずじまいのミステリーにしておくことも、ワインのロマンだと思います。

(本稿は書籍『15か国・地域を飲んで旅する ワインの世界地図』より一部を抜粋・編集したものです)

水上 彩(みずかみ・あや)

ワインジャーナリスト/コラムニスト
1986年生まれ、神奈川県鎌倉市育ち。お茶の水女子大学理学部卒業後、大手通信企業を経てワイン業界へ。世界最大のワイン教育機関WSETが認定する、国内でも取得者の少ない最難関資格「Level 4 Diploma」を保持。
『Forbes JAPAN』オフィシャルコラムニストとして、ワインをビジネスや文化の視点から紐解く一方、国内外の産地を精力的に訪問し、ストーリーを丁寧に紡ぐ執筆活動を展開。スーパーで手に入るデイリーワインからハレの日の1本まで等しく愛し、初心者目線の解説に定評がある。また、茶道や着物を日常に取り入れたライフスタイルを実践し、ワインと日本の美意識を交差させた独自の楽しみ方を発信している。趣味はアルゼンチンタンゴ。