『【推しの子】』『THE FIRST SLAM DUNK』『汝、星のごとく』――2023年を代表する大ヒット3作品には、ある意外な共通点がある。それは、男女の恋愛や夫婦愛ではなく、「親子の愛」、とりわけ「父の不在」を軸に物語が描かれていることだ。なぜ今、人々はこうした物語に強く惹かれるのか。文芸評論家・三宅香帆氏が、現代日本人が信仰する「本物の愛」の正体を読み解く。※本稿は、文芸評論家の三宅香帆『「夫婦」不在社会』(講談社)の一部を抜粋・編集したものです。

エンタメ界を席巻した
3作品には「父」がいない

三宅香帆氏三宅香帆氏 写真/渡辺充俊(c)講談社

 コロナ禍も終わりを迎えかけていたある年。不思議な現象が起きていた。2023年のことだ。

 その年のアニメジャンル作品の年間配信再生数ランキング1位になったのは『【推しの子】』だった(ABEMA調べ)。興行収入ランキング1位になったのは『THE FIRST SLAM DUNK』だった(日本映画製作者連盟調べ)。年間ベストセラー単行本文芸書1位になったのは『汝、星のごとく』だった(トーハン調べ)。

『【推しの子】』『THE FIRST SLAM DUNK』『汝、星のごとく』。この3作品にはある共通点がある。実は、どれも主人公の母親が「シングルマザー」なのである。

 原作赤坂アカ・作画横槍メンゴの漫画『【推しの子】』を原作としたアニメ『【推しの子】』は、第1話を映画館でも公開するなど宣伝手法とともに話題になった。本作は、その名の通り主人公が「推し」のアイドルの子どもに転生する物語である。アイドルのアイは主人公を、シングルマザーとして出産することになるのだ。とくに映画館でも公開されたアニメ第1話において、母の愛は強調される代わりに、父はぽっかりと不在となっている。

 あるいは井上雄彦の漫画『SLAM DUNK』を原作に井上雄彦自らが監督した『THE FIRST SLAM DUNK』。本作の主人公となる宮城リョータの母も、シングルマザーである。