コンビニで買える1000円以下のワインと、高級店で供される10万円のワイン。この100倍もの価格差はどこから生まれるのか。ただ「美味しい」と飲むだけの人と、その裏にある歴史やビジネスのカラクリを知って味わう人とでは、得れる教養に雲泥の差がつく。「ワイン界のMBA」とも言われる難関資格を持つ著者が、価格の裏側に隠された決定的な違いを解説する。(構成/ダイヤモンド社書籍編集局)

【飲める教養】「1000円の安旨ワイン」と「10万円の高級ワイン」。一体何が違う?Photo: Adobe Stock

100倍の価格差を生む「直接要因」

ワインの味わいや品質、そして価格にダイレクトに影響してくる要因を、私は「直接要因」と呼んでいます。

寒い産地か暑い産地かという「気候」。斜面か平坦かという「地形」。手摘みか機械収穫かという「栽培方法」。自然派か否かという「醸造アプローチ」。そして、どんな容器で寝かせるかという「熟成の環境」

生産者が、造りたいワインの酒質に合わせて無数の選択肢から選び取ることで、ワインのスタイルが決まります。

例えば、1000円のコンビニワインと、10万円の高級ワイン。なぜ価格がこれほど違うのでしょうか?

あくまで一例ですが、次のようなケースが考えられます。

安旨ワインの「規模の経済」

まず、1000円のワインの場合。これは「規模の経済」をフル活用し、徹底してコストを削減しています。

手をかけずとも健やかなぶどうができる、平坦かつ広大な畑。そこから機械でぶどうを一気に収穫し、巨大な工場で効率的に醸造します。

熟成においても、高価な木樽の代わりに、安価なオークチップ(樽の香りをつける木材)を使用して期間を短縮。

輸送にはバルク輸送(大きなタンクでの大量輸送)を活用し、輸送費を極限まで抑えています。

高級ワインの「異常な手間」

一方、10万円のワインの場合はどうでしょう。

最高のぶどうが育つ区画を厳選し、機械が入れないような急斜面において、手作業ですべてを栽培します。

醸造後も、何年も熟成させたのちに出荷されます。

その間は資金を回収できないため、生産者には強大な資本力が必要です。

輸送の際も、温度管理を徹底した高価なリーファーコンテナで丁寧に運ばれます。近年は円安に加え、コルクやボトルなどの資材、水道光熱費の上昇が深刻です。

さらには、紅海周辺の治安悪化など、地政学的リスクによる輸送コストの上昇や遅延等も重なっています。輸入業者からは「正直きつい……」という悲鳴が漏れ聞こえているのが現状です。

グラスに潜む「見えない要素」

さらに、深い海の下に隠れている要素があります。それが、歴史・食文化・政治・経済・市場のトレンドといった「間接要因」です。

先ほどの「直接要因」は、ある程度グラスから感じ取れるケースもあります。

例えば、同じシャルドネという品種でも、フランスのシャブリが青リンゴの風味だとしたら、カリフォルニアはトロピカルフルーツといったように。

冷涼な地域のワインはシュッと涼しげな味がしますし、温暖な地域なら大きくて豊かな味がします。

醸造の工程も、「樽の香りが強いから新樽を使っているのかな?」「土っぽい香りがするから、年数の経ったワインなのかも」などと類推できます。

ラベルを見ずに試飲だけでグラスの中身を言い当てる猛者(ブラインドテイスター)もいますが、これは才能以上に、経験(データベースの蓄積)で学べる技術です。

ワインは「飲む世界地図」

一方、氷山の下にある背景である「間接要因」は、味わいだけではわかりません。

しかし、ここにこそ現実世界とワインが交差する「世界地図」の入り口があるのです。

グラスの中の液体が、なぜその味になり、なぜその価格で目の前にあるのか。

その背景には、地球規模の気候、長い歴史、そして現代の経済や政治が複雑に絡み合っています。もちろん、その地図の描き方に唯一の正解はありません。

小さな入り口から、皆さんがご自身だけの豊かな世界を発見していく――そのお手伝いができれば、こんなに嬉しいことはありません。

(本稿は書籍『15か国・地域を飲んで旅する ワインの世界地図』より一部を抜粋・編集したものです)

水上 彩(みずかみ・あや)

ワインジャーナリスト/コラムニスト
1986年生まれ、神奈川県鎌倉市育ち。お茶の水女子大学理学部卒業後、大手通信企業を経てワイン業界へ。世界最大のワイン教育機関WSETが認定する、国内でも取得者の少ない最難関資格「Level 4 Diploma」を保持。
『Forbes JAPAN』オフィシャルコラムニストとして、ワインをビジネスや文化の視点から紐解く一方、国内外の産地を精力的に訪問し、ストーリーを丁寧に紡ぐ執筆活動を展開。スーパーで手に入るデイリーワインからハレの日の1本まで等しく愛し、初心者目線の解説に定評がある。また、茶道や着物を日常に取り入れたライフスタイルを実践し、ワインと日本の美意識を交差させた独自の楽しみ方を発信している。趣味はアルゼンチンタンゴ。