鈴木さんの質問は意表を突くものが多く、即答できずに「調べてきます」と言うこともしばしばありました。数字の背景にある会社の動きを推察し、そこから鋭角に突かれるというイメージです。
ある月の決算では、灯器事業部の研究開発費が増えていたことに着眼されました。研究開発費はコストです。増加すると、収益を圧迫するのは当然です。
その数字を見た鈴木さんからは、「いま、灯器事業部の、あの技術の山田は、何の研究をしているんや」という質問が飛びました。
マクロの会議で、突如、ミクロの質問がくると、案外、頭が追いつかないものです。身体で覚えたことしかすぐさまに反応できないのです。そうした、いわば多面的・多角的な鍛え方をするのがこの決算検討会という名の道場でした。
数字だけでも現場だけでも
松下の経理は務まらない
また、経理として数字は押さえているが、その研究の中身までは明確には把握していない、というのが普通でしょう。頭をかきながら、慌てて担当者に実情を聞きに行きます。そのように、数字の向こうに一歩踏み込むことで、経理社員として現場を重視する基本姿勢が植えつけられていきました。
『実践経営経理 君はまだ松下幸之助を知らない』(川上徹也、PHP研究所)
私はまめな性格なので、今でも当時学んだことを記録したメモを残しているのですが、他の教訓で特に心に響いたものーー「分析の論理性」「金額で物事を捉える」「事業の共通の尺度は金額だけ」「資金はどうか。減っていないかを常に見るのが番頭役」ーーはやはり今でも忘れられません。
具体的な数字を扱いながら、抽象化された概念を教え込まれる。この教えを活かせるようになるには、仕事への熟練もさることながら、伝統の力もあったように思います。松下伝統の「経理社員制度」も、その制度思想の原点にあるのは、1人ひとりの社員との対話であり、心の交流でした。
のちに本社の経理として仕事をするうえで、現場の経験が、どれほど役に立ったかはいうまでもないことです。
現場を実際に体験する配慮をし、育ててくれた当時の上司や会社の忍耐強い人材育成には感謝するほかありません。







