子どもと毎日顔を合わせて、密にコミュニケーションを交わせるのは親の特権だ。しかし、毎日顔を合わせているからこそ、言葉選びの細部にまで気を使うことは少ないのではないだろうか。一方、通信教育「進研ゼミ」の「赤ペン先生」は、毎月1回だけのやりとりだからこそ、子どもたちに伝える一言一句にも手を抜かない。そのこだわりに、子どもたちのやる気を引き出すカギがあると語るのは、赤ペン先生の全国代表である佐村俊恵さんだ。佐村さんの新刊『57年間、9200万人の子どもを励まし続けた 赤ペン先生のほめ方』では、歴代の赤ペン先生が磨き上げてきた「伝え方の技術」が惜しみなく明かされている。そのエッセンスを、ぜひ体得してほしい。
(構成/藤田美菜子、ダイヤモンド社書籍編集局)
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名前は魔法。積極的に呼びかける
――親の言うことはきかなくても、赤ペン先生の言うことは素直に聞く子が多いと聞きます。赤ペン先生の言葉は、なぜそれほど子どもの心に響くのだと思いますか?
佐村俊恵氏(以下、佐村) 伝えている内容は同じでも、ほんの少しの「伝え方」の違いで、子どもの受け取り方は大きく変わります。今日はその中でも、私たちが絶対に手を抜かない「3つのポイント」をお話しできればと思います。
まず1つめが、「子どもの名前を呼ぶ」こと。赤ペン先生からのメッセージは「◯◯さん、とても上手に書けているね」というように、名前の呼びかけから書き始めることが多いです。
これは「あなただけに向けて伝えているよ」という特別感を感じてほしいからです。自分という個人が「尊重されている」と実感できると、子どもの自己肯定感は育っていきます。名前とは、その子にとって「個性」そのものであり、特別な意味を持つものですから。
――確かに、大人でも、自分の名前を親しく呼びかけてくれる人には誰であれ親近感がわきますよね。
佐村 その積み重ねが、信頼につながっていくのだと思います。
呼びかけ以外でも、私たちは折に触れて名前を意識した声かけを行っています。
たとえば低学年の子が、自分の名前に高学年で習うような難しい漢字が入っているときに、それを一生懸命書いてくることがあるんですね。
小さい子にとっては、自分の名前を漢字で書けるようになるのは、とてもうれしくて誇らしいことなんです。そこを逃さず、「名前の難しい漢字が書けてすごいね!」とほめてあげると、翌月にはその漢字をもっと上手に書けるようになっていたりするんですよ。
課題に出てくる漢字がその子の名前に入っているときも、「自分の名前の字がきれいに書けたらすてきだよね」というふうに、名前にひもづけて提案すると、ていねいに取り組んでくれる子が多いですね。
名前に含まれる文字をきっかけに、ほかの文字に対してもていねいに向き合う姿勢が育っていく様子を何度も目にしてきました。まさに「名前は魔法」なんです。
子どもの「熱量」を受け取り、同じ温度で返す
――2つめのポイントは何でしょうか。
佐村 私たちが指導で最も気をつかっていることのひとつが、子どもが発信してきた「熱量」に、いかにチューニング合わせるかということです。
キャッチボールにたとえると、子どもが渾身の速球を投げてきたのに、こちらがサラッと見逃してしまったら、その子の意欲はしぼんでしまいますよね。
逆に、自信なさげにそっと投げてきたボールに、過剰に高いテンションで投げ返しても引かれてしまう。だから、投げてきたボールの「重さ」や「速さ」を感じ取ることが大事なんです。
――たとえば、実際にどんなやりとりがありましたか?
佐村 以前、「バスケを一生懸命やっている」と答案に書いてきてくれた子がいました。
おたよりの欄には、その子のやる気を表すように、ものすごい量のスタンプが押されていたんです。ここで私があっさりと「バスケがんばってね」とだけ返してしまったら「僕の熱い気持ちが伝わらなかったのかな」と、がっかりさせてしまうかもしれません。
ですから私は、「きみがバスケに全力投球している気持ち、ガッチリ受け止めた!」と言わんばかりに、たくさんのイラストを添えて、「先生も特大の花まるで応援するよ!」とメッセージを返しました。
逆に、メッセージのテンションが低かったり、答案に空欄が目立ったりするときは、むりやり「がんばれ! ◯◯さんならできる!」と高すぎるテンションで励ましても、かえって負担になることがあります。
そんなときは、「難しかったのに、最後まであきらめずに提出できたね。そのがんばりがとってもうれしいよ」と、そっと寄り添うようなメッセージを送ります。
――子どもが手渡してきた「熱量」を感じ取り、同じ温度で返すことが大切なんですね。
佐村 はい。そうすることで、子どものほうにも「相手が自分のことをわかってくれている」という安心感が生まれるんです。
「視覚的なインパクト」は、あなどれない
――3つめのポイントを教えてください。
佐村 「視覚的な要素にこだわる」ことです。
言葉でほめることも、もちろん大切ですが、文字が多すぎると子どもは圧倒されてしまうんですね。だから、メッセージはひと呼吸で読めるくらい――目安としては20字前後にとどめるようにしています。
――言葉よりもビジュアルで伝える、と。
佐村 はい。そのときにいちばんお世話になっているのが、おなじみの「花まる」です。花まるは単なる採点記号ではなく、子どもとの大切なコミュニケーションツール。がんばって出した答案が戻ってきたとき、最初に目に入るのが大きな花まるだとうれしいですよね。そんな「視覚的なインパクト」を、私たちはとても大切にしています。
よくできた部分には花まる、部分的に合っているところにはミニ花まるといった具合に、状況に応じて大小さまざまな花まるを使い分けたりもします。
ベテランの赤ペン先生の中には、100種類近くの花まるを使い分ける人もいるほど。特に大きな花まるは「とびきりよくできたところ」に使うのがお約束です。あまり多用すると、もらえた喜びや特別感が薄れてしまいますから。
赤ペン先生が正しい答えへと導く指摘やアドバイスを書くときも、文字だけだと強く聞こえるかな?というときは、小学講座のキャラクターである「コラショ」のイラストを描き込んで、コラショからのメッセージとしてフキダシに書いて伝えることもあります。すると、指摘も楽しく、受け入れやすい雰囲気になるんです。
おうちでも、市販のスタンプなどを使って同じようなことができると思います。ポイントは、お子さんが親御さんからのメッセージを「うれしいな」「読むのが楽しみだな」と前向きになれるしかけを、目に見える形で用意すること。ぜひ、ご自分でも楽しんで取り組んでみてください。
――名前を呼び、同じ熱量で返し、視覚的に楽しませる。3つに共通するものは何でしょうか。
佐村 どれも根っこは同じで、「あなたのことを、ちゃんと見ているよ」というメッセージなんですよね。どれも今日からできる小さなことばかりですので、ぜひ試してみてほしいなと思います。



