「その日の気分に、店が合わせてくれる」――そんな時代が、脳科学の進歩によって現実になろうとしている。米国在住の精神科医・久賀谷亮氏の著書『世界のエリートがやっている 最高の休息法[完全版]』には、脳科学をビジネスに応用する「ニューロマーケティング」の可能性についても書かれている。著者のインタビューを掲載する。(構成/小川晶子、ダイヤモンド社書籍編集局)
Photo: Adobe Stock
脳科学がマーケティングを変える
――脳科学の知見は、医療や個人の休息法だけでなく、ビジネスのマーケティングにも応用されているそうですね。
久賀谷亮氏(以下、久賀谷):はい。脳の活動を商品のマーケティングに役立てる「ニューロマーケティング」という分野が注目されています。たとえば、マサチューセッツ工科大学の研究拠点であるMITメディアラボなどでは、心拍数やスキンコンダクタンス(発汗による皮膚の電気伝導性の変化)を測定するバイオセンサーが開発されています。こうした技術で、人間のストレスなどを記録することも可能です。また、スマートフォンのグリップ部分に特殊なフィルムを貼ることで、ユーザーの身体情報をリアルタイムで収集する技術も考案されています。
感情を「お天気レーダー」のように俯瞰する
――人々の気分がデータ化されるのですね。
久賀谷:ええ。これらのデータが位置情報とともに瞬時に解析されれば、そのエリアにいる人々が全体としてどんな気分なのかを、まるでお天気レーダーのように俯瞰することも可能になります。たとえば、ある商業施設のエリアで来店客の多くがストレス状態にあることがわかれば、その場で流す音楽を変えたり、照明を調整したりするといった対応が、データに基づいてリアルタイムで行えるようになるわけです。
――まるでSFの世界のようですが……
久賀谷:そうですよね。でも、これはすでに技術的には現実のものになりつつあります。人間の感情や脳の状態が「見える化」されることで、私たちの行動や消費パターンがより深く理解されるようになるのです。
心を癒やす次世代のビジネスモデル
――『世界のエリートがやっている 最高の休息法[完全版]』の中では、ニューロマーケティングの研究者であるブラッドが、その知見をベーグル店のマーケティングに活かしていましたね。
久賀谷:そうなんです。ブラッドのアイデアはこうです。店内にバイオセンサーを搭載したマシンを開放しておいて来店客のストレス状態を測定。そして、特定のベーグルセットを注文したお客さんには、それぞれの解析結果に応じた特別サイドメニューを提供します。悲しい気分の人にはやさしい味のスープを、気分が高まりすぎている人には心が落ち着くハーブティーを提供するなんていうことができるわけです。単に「売れる商品を提供する」のではなく、「その瞬間のその人に必要なものを提供する」という発想です。
人の心を癒やすという理念に裏打ちされた次世代のビジネスモデルが、すでに生まれつつあるのです。マインドフルネスが「脳と心の科学」として注目を集めているのと同様、ニューロマーケティングもまた、人間の内面を科学的に理解しようとする大きな潮流のひとつだと言えます。



