「40歳の壁」「35歳の壁」「キャリアの壁」など、私たちは人生の転機をよく「壁」にたとえます。しかし、その問題は本当に「壁」なのでしょうか。比喩を間違えると、現実の捉え方まで間違えてしまいます。「40歳の壁」から、言葉が思考に与える影響を考えてみましょう。本記事では、書籍『言語化だけじゃ伝わんない –––– 絵を描くように「考える・伝える」技術』の中からビジネスパーソンにも役立つノウハウとして紹介する。(構成/ダイヤモンド社・種岡 健)

「40歳の壁」は、本当に「壁」なのか?
「35歳の壁」「40歳の壁」「50歳の壁」……。
年齢にまつわる話では、「壁」という言葉がよく使われます。
たしかに、直感的にはわかりやすい表現です。
壁が目の前に立ちはだかり、それまでのようには前に進めなくなる。
「ある年齢を境に、急に人生が難しくなる」というイメージが一瞬で伝わります。
ただ、比喩はわかりやすいからこそ注意が必要です。
その比喩によって、現実を間違って捉えてしまうことがあるからです。
では、「40歳の壁」は、本当に「壁」なのでしょうか。
これはフリーランス界隈では「40歳の壁」として知られる問題です。
ここで、比喩のつくり方を考えておきたいと思います。
比喩をつくるときのポイントは、「伝えたいことは何か」ということです。
――『言語化だけじゃ伝わんない』より
比喩を考えるとき、つい「うまい表現」を探してしまいます。
しかし、その前にやるべきことがあります。
「そもそも自分は、何を伝えようとしているのか」を明確にすることです。
ここがズレると、どれだけキャッチーな比喩を思いついても、現実の見え方までズレてしまいます。
私たちは何を想像するか
「壁」という言葉から、何をイメージするでしょうか。
目の前をふさぐもの。
そのままでは先に進めないもの。
乗り越えなければならないもの。
つまり「40歳の壁」と聞けば、多くの人は、「40歳になると、それまで進んでいた道の途中に、突然、障害物が現れる」というイメージを持つでしょう。
すると、対策も自然と「壁をどう乗り越えるか」になります。
もっと努力する。
もっと能力を磨く。
もっと頑張って、高い壁を越える。
しかし、本当に起きていることが「壁」ではなかったらどうでしょう。
必要な対策まで間違えてしまう可能性があります。
40歳で突然、能力が落ちるわけではない
フリーランスの漫画原作者で編集者の竹熊健太郎が『フリーランス、40歳の壁』という本を出しています。
実際に読んでみると、40歳をすぎて仕事が減る主な理由は、「それまで一緒に仕事していた担当編集者が、管理職になったこと」でした。
要するに「発注する側は同世代の人に発注したほうが依頼しやすい」ということです。
ところが40代くらいになるとそういう人たちも管理職になるので、直接フリーランスに発注しなくなる。「だから仕事が減る」というわけです。
――『言語化だけじゃ伝わんない』より
40歳になった瞬間、フリーランス本人の能力が突然落ちるわけではありません。
昨日まで描けていた絵が、40歳の誕生日を境に描けなくなるわけでもない。
文章が書けなくなるわけでも、アイデアが出なくなるわけでもありません。
変わったのは、自分ではなく「周囲」です。
一緒に仕事をしてきた人たちの立場が変わる。
現場で直接発注していた人が管理職になる。
すると、これまで仕事が流れてきたルートが変わってしまう。
だとすれば、「壁が現れた」というよりも、もっと適切なイメージがありそうです。
「40歳の壁」ではなく、「40歳の分かれ道」
イラストレーターとしての私が思うのは、これは「壁」ではなく「分かれ道」に似ているということです。
「40歳の壁」と言われていた問題は「40歳の分かれ道」だったのではないか。
いままで一緒に仕事をしてきた依頼主が、管理職の道に進む。
自分はそのままフリーランスの仕事を続ける。だからその道に進んだら、仕事の取り方を根本的に変えなければいけないということです。
先に考えるべきことは、「伝えたいことは何か」なのです。
そこを整理したほうが、より適切な比喩を思いつくはずです。
いったん見つけた比喩は、それ自体が「ラベル」となり、ペタッと頭に貼りついて取れにくくなります。
その結果、間違った比喩をずっと使い続けてしまいかねません。
間違った比喩は、自分がものごとを認識するときの歪みにもなってしまうのです。
――『言語化だけじゃ伝わんない』より
「壁」と「分かれ道」では、意味がまったく違います。
壁なら、乗り越える必要があります。
しかし、分かれ道なら、必要なのは「進む道を選び直すこと」です。
これまで同じ道を歩いてきた取引先が、管理職という別の道へ進んでいく。
自分はフリーランスとして、そのまま進んでいく。
気づけば、いつの間にか道が分かれている。
そう考えると、40歳以降に必要なのは、単純に「もっと頑張ること」ではないとわかります。
新しい発注者と出会う。
若い世代とも仕事ができるようにする。
これまでとは違う仕事の取り方を考える。
あるいは、自分自身もプレイヤーとは違う役割へ移っていく。
「分かれ道」という比喩を使うだけで、取るべき行動まで変わって見えてきます。
比喩は、単なる「言い換え」ではない
ここに、比喩の怖さがあります。
比喩というと、説明をわかりやすくするためのテクニックだと思われがちです。
しかし、それだけではありません。
比喩は、私たちの「ものの見方」そのものを決めます。
仕事が減ることを「壁」と捉えれば、「どう乗り越えるか」を考える。
「分かれ道」と捉えれば、「どちらへ進むか」を考える。
「下り坂」と捉えれば、「落ちないようにする方法」を考えるでしょう。
同じ現象でも、貼るラベルによって、その後に考えることが変わってしまうのです。
「その比喩は、現実のどの部分と似ているのか」
これを考えることです。
似ている部分がほとんどないなら、その比喩は捨てたほうがいい。
むしろ別の比喩を探したほうが、ものごとの本質がよく見えるようになります。
1981年静岡県生まれ。制作会社にて、雑誌タイアップ広告の制作進行を務めたのち、フリーランスのライターを経験。国際情勢関連の英日翻訳をやりながら、2011年からイラストレーターの活動をスタート。現在は書籍・雑誌・広告など幅広く活動中。特に、ビジネス書や新書での挿絵や図解を担当することが多く、10年以上、活躍している。
これまで、装画・イラストを担当した書籍は200冊以上。『言語化だけじゃ伝わんない –––– 絵を描くように「考える・伝える」技術』(ダイヤモンド社)が初の単著となる。




