スマートフォンに表示された割引クーポンを見せる女性写真はイメージです Photo:PIXTA

クーポンを配った人ほど、たくさん買っている。そんなデータを見れば、「やっぱりクーポンは効いている」と思いたくなる。だが、その判断には意外な落とし穴がある。限られた予算で、本当にクーポンを配るべきなのはどんな人なのか。データから「本当の効果」を見抜く考え方を紹介する。※本稿は、Data Science Center副所長の安井翔太、サイバーエージェントのデータサイエンティストの伊藤寛武、金子雄祐『原因と結果を武器にする思考』(日経BP 日本経済新聞出版)の一部を抜粋・編集したものです。

売上が2倍になったのは
本当にクーポンのおかげか?

 あなたはある企業で、売上を伸ばすために1000円の割引クーポンをユーザーに配布しています。しかし、ある日上司から次のように言われました。「クーポンの原価も少なくない。本当に売上は増えているのか、一度ちゃんと見直してほしい」。そこであなたは、過去の売上データを使って、図表1-1のようなグラフを作成しました。

図表1-1 クーポンの使用と売上の関係同書より転載 拡大画像表示

 このグラフは、ある期間において、クーポンを配ったユーザーと、配らなかったユーザーの平均売上を比較したものです。これを見ると、クーポンを配ったユーザーの売上は10000円で、配らなかったユーザーの売上は5000円であるため、約2倍になっています。

 この結果を基に、あなたは「クーポンにはユーザーの売上を2倍にする効果がある」と考えたくなるかもしれません。もしこれが正しければ、クーポン配布は非常に効果的な施策です。多少割引いた分のコストを支払っても、売上が2倍になるのであれば、迷わず継続すべきでしょう。

 しかし、本当にそうでしょうか?多少の割引で売上が2倍になるというのは、どこかおかしい気がしないでしょうか。これこそが、見せかけの効果の典型例です。

 そこでデータをよく調べてみると、今までは過去の購買金額が多かったユーザーに対してクーポンが配られていたことがわかりました。過去の購買金額が多いということは、よく商品を買ってくれるヘビーユーザーであり、今後も購入を続けてくれる可能性が高いといえます。

 つまり、もともとの購買意欲が高いユーザーに対してクーポンを配っていたのです。その一方で、クーポンを配っていないユーザーは、もともとの購買意欲が低いユーザーだったということになります。

 このように考えると、図表1-1が示しているのは「クーポンを配ったから売上が高くなった」のではなく、「もともと売上が高いユーザーにクーポンを配っていた」という関係だったことになります。

 つまり、この分析結果では、クーポンには売上を2倍にする効果があるように見えますが、それは見せかけの効果であり、本当の効果はもっと小さいはずなのです。

「本当の効果」は同じ人の
2つの未来を比べて考える

 因果推論では、効果を知りたい対象のことを施策またはトリートメントと呼びます(注1)。

(注1)そのほかにも処置や介入という呼ばれ方をすることもあります。