「在宅勤務をするとサボっていると思われるから出社しなきゃ」「若いうちにがっつり働かないと将来詰みそう」と考えて、無理な働き方をしていないでしょうか? 世の中には、働き方に関するもっともらしい「常識」があふれています。しかし、それらの多くは思い込みにすぎず、実は根拠に乏しいものも少なくありません。そこで、慶應義塾大学の佐藤豪竜氏の著書『働き方の科学』をもとに、そのような俗説にとらわれないために不可欠な視点を紹介します。(構成/上村晃大)
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「在宅勤務はサボり放題」はウソだった
・引退すると老け込む
・在宅勤務はサボり放題
・若いうちにハードワークしないと将来伸び悩む
このような言説を聞いたことはありませんか? 世の中には、このような働き方に関する「常識」があふれています。
しかし、その常識の多くは個人の経験談か、一部の成功例を一般化した話にすぎず、誤っているものがたくさんあります。もっともらしく聞こえるけれど、十分な根拠を欠いたものが少なくないのです。
例えば、「定年後も働き続けたほうが健康に良い」と考える人は多いでしょう。元気に働いている高齢者を見れば、そう思うのも自然です。
けれども実は、「もともと元気だから定年後も働くことができる人」ばかりが目に入っているだけという落とし穴があります。
私がハーバード大学の恩師らと、もともとの健康状態の違いを考慮して調べ直してみると、定年後も働き続けている人よりも定年で引退した人のほうが心疾患のリスクが低く、認知機能が高いという意外な結果が明らかになりました(*1)。
また、「在宅勤務は生産性が下がる」と信じている人は少なくありません。しかし、スタンフォード大学が行った研究は、在宅勤務には生産性を下げるどころか向上させる効果があることを明らかにしています(*2)。
それだけではなく、従業員の離職率は大幅に下がり、オフィス賃料などのコストを節約できるといったメリットがあることも示されています。
さらに、「若いうちにハードワークをしないと将来伸び悩むから、20代は長時間労働をいとわず働け」といったアドバイスもよく耳にします。
しかし、そこで語られているのは、多くの場合、ハードワークをして成功した個人の経験談であったり、若者を都合よく搾取したい経営者のポジショントークだったりします。
パデュー大学の研究では、仕事のパフォーマンスの差は、働いた時間ではほとんど決まらないことが明らかになっています(*3)。時間の影響は1%未満にすぎないのです。
「働き方」論は
「エビデンス」で検証すべき
働き方に関する「常識」は、働く人すべてに影響します。企業によっては、残業することが当たり前になっているために、減らそう、やめようとは言い出しにくい職場もあるでしょう。コロナ禍を経て、在宅勤務からオフィス出社への回帰も多くの企業で見られます。
しかし、影響が大きいのにもかかわらず、きちんとした研究論文に基づいて働き方の制度を決めようという動きはほとんどありません。
こうした世間の「働き方」論は、エビデンス(科学的根拠)に基づいて1つずつファクトチェックする必要があります。
どのような働き方をすれば、生産性が上がり、健康や幸福につながるのか。何が確かな知見で、何が印象論にすぎないのか。研究論文とデータを手がかりに、その境界線を見極めるのです。
職場の生産性を高めたい。離職を防ぎたい。人がつぶれない組織をつくりたい。そう考えるならば、経験や勘だけではなく、エビデンスに目を向けることが必要です。
*1 Sato, K., Noguchi, H., Inoue, K., Kawachi, I., & Kondo, N. (2023). Retirement and cardiovascular disease: A longitudinal study in 35 countries. International Journal of Epidemiology, 52(4), 1047-1059. https://doi.org/10.1093/ije/dyad058; Sato, K., & Noguchi, H. (2026). Heterogeneous associations of retirement with health and behaviors: A longitudinal study in 35 countries. American Journal of Epidemiology, 195(3), 644-652. https://doi.org/10.1093/aje/kwaf126
*2 Bloom, N., Liang, J., Roberts, J., & Ying, Z. J. (2015). Does Working from Home Work? Evidence from a Chinese Experiment. The Quarterly Journal of Economics, 130(1), 165-218. https://doi.org/10.1093/qje/qju032
*3 Macnamara, B. N., Hambrick, D. Z., & Oswald, F. L. (2014). Deliberate Practice and Performance in Music, Games, Sports, Education, and Professions: A Meta-Analysis. Psychological Science, 25(8), 1608-1618. https://doi.org/10.1177/0956797614535810








