職場でのすれ違いはなぜ起きるのか。2万人をみてきた組織開発コンサルタントで『組織の違和感』の著者である勅使川原真衣氏が、実際に職場に分け入って考えた、組織変革のコツを伝えます。(構成/ダイヤモンド社書籍編集局)
会議室での沈黙
「何か意見ある人?」
会議の終盤、上司がそう問いかける。
少し間があって、誰も口を開かない。
「本当にない? 何でもいいんだけど」
それでも沈黙。
結局、「じゃあ、この方向で進めます」と上司がまとめ、会議は終わる。
ところが会議室を出た瞬間、
「いや、あれはちょっと無理じゃない?」
「私もそう思ってた」
「たぶん現場は回らないよね」
と、急に意見が出てくる。
こんな光景に、心当たりはないでしょうか。
上司からすると、「だったら会議で言ってよ」と思うかもしれません。意見を求めたのに誰も言わなかったのだから、部下の主体性の問題に見えます。
「最近の若手は受け身だから」「自分の意見を持っていないから」と考えたくなるかもしれません。
でも、そこで人の性格や能力の問題にしてしまうと、大事なことを見落とすおそれがあります。
「どう思う?」の曖昧さ
そもそも、「意見を言ってください」という問いは、意外と難しいものです。
何について意見を求められているのか。今はアイデアを広げる時間なのか、それとも決定する時間なのか。上司の案に反対していいのか。現実的な問題点を指摘してほしいのか。
それがわからないまま「自由に意見を」と言われても、人はなかなか話せません。
たとえば上司が20分かけて新しい企画を説明したあと、「どう思う?」と聞いたとします。
上司としては率直な意見がほしい。しかし部下から見ると、すでに相当な時間をかけて準備された案です。
「ここからひっくり返していい話なのだろうか」
「反対するなら、代案まで出さないといけないのでは」
「上司はもうやりたいと思っているのでは」
そう考えて、口を閉じることがあります。
これは「意見がない」のではありません。
どこまで言っていいのかわからないのです。
即座に発言できることだけが優秀さではない
さらに、人によって考え方のスピードや方法も違います。
その場で話しながら考えられる人もいれば、一度持ち帰って整理すると、よい意見が出る人もいます。口頭より、文章のほうが正確に考えを伝えられる人もいます。
それなのに、「会議で即座に発言できること」だけを積極性の基準にしてしまえば、本来あったはずの意見を取りこぼしてしまいます。
組織では、人を変えようとする前に、人と環境の「組み合わせ」を見ることが大切です。
「どう思う?」ではなく、「この案の懸念点を一つ挙げてください」と聞く。
会議の前に資料を共有して、考える時間をつくる。
最初に上司の意見を言わず、メンバーから先に考えを出してもらう。
口頭だけでなく、チャットやメモでも意見を受け付ける。
こうした小さな調整だけで、今まで黙っていた人から意外な意見が出てくることがあります。
「どうせ変わらない」という諦めが蔓延する前に
そして、もう一つ忘れてはいけないのが、「出てきた意見をどう扱うか」です。
せっかく反対意見を言ったのに、「でも現実的には難しいよね」とすぐ退けられる。何を言っても結論は変わらない。
そんなことが続けば、人は「ここでは黙っていたほうがいい」と学習します。
誰も意見を言わない会議を見て、違和感を覚えたなら、その感覚は正しい。ただし変えるべきなのは、黙っている相手ではありません。
「なぜ誰も話さないのか」ではなく、「この場は、本当に話せるようにつくられているだろうか」と考えてみる。
人を会議に合わせるのではなく、会議の設計自体を調整する。
沈黙は、相手に問題がある状態ではありません。
組織のつくり方を見直すべきだという、小さなサインなのです。
忙しいリーダーに、効果のあることだけ

「好き嫌い」や「やる気」、
「あうんの呼吸」に頼らず
組織を機能させるための具体策!
対話より先に、やるべきことがある。
「大丈夫です」のひとことでモヤッとしたとき、
待ちの姿勢ばかりの部下に自走してもらうにはどうしたらいいのか、
スタンドプレーが多い部下に「チームで仕事をしよう」と伝えるための効果的な伝え方は?……
ビジネスの現場に尽きないコミュニケーションの悩みを、「マネジメント」のスキルとして、「3段階」に分けて打ち手を授けるのが本書です。
まずは土台となる「観察」のスキルを紹介。ここでは、違和感に着目するというユニークな手法をとります。
そして、「自分を知る」「相手を知る」「組み合わせる」の3段階で、関係性から組織の最適解を導き出します。
自分と相手の「持ち味」を知り、
組織をつなぎ直すための一手を
この3段階を経て、違和感を乗り越えるための伝え方や振る舞い方を具体例とともに紹介します。
スキルといっても、難しいものではありません。「あれ、今なんか変だったな」という気づきを、手がかりにつかむこと。
さらに本書では、「持ち味」を知るためのいくつかの診断も掲載。すぐにチームに実装できるような作りにしています。
事前に特別な準備や学習はまったく不要。やるべきことが明確になり、現場のもやもやがクリアになります。
いつでも「今ここ」での気づきから組織を改善できる。行き詰まった状態を打開する新鮮な方策が詰まった、忙しいリーダーの支えになる一冊です。

本書の内容
はじめに
ギリギリな組織の頼みの綱は
人それぞれが「正しさ」を生きている
「持ち味」の組み合わせと「解釈」のクセ
第1章 違和感とは何か? ―― 「決めつけ」が横行する現場で
観察の達人!? コナンくん
仕事に本音はいらない
「なんか変な感じ……」の正体
人はみな「違う色のメガネ」をかけている
「職場のすれ違い」は決めつけから生まれる
とにかくみんな疲れている
すべてのコミュニケーションの基本となる「観察」の3ステップ
第2章 「自分を知る」 ―― 違和感に気づくと「自分」がわかる
自分の本音がわからない
変えられない性質は確かにある
手がかりは「どうしてもとりつくろえない瞬間」
「わかってほしかった」は「解釈のクセ」が生み出している
「自分が知らない自分」はスマホが教えてくれる
第3章 次に、「相手を知る」 ―― 人間関係の違和感から「相性」を知る
「伝える」の前に「見る」がある
「言わなくてもわかるでしょ」はマネジメントの怠慢
相手の何を「見る」のか? ―― ソーシャルスタイルの4類型
「他者の合理性」を知るヒント
「人それぞれ」では話が進まない
第4章 そのうえで、「組み合わせる」 ―― 違和感を役立て最高の組織をつくる
「今いるメンバー」で最高のチームをつくる
「好き嫌い」より「相性」を考える
それは「評価」ではなく「評判」です
「自分でやったほうが早い病」への処方せん
「似た者同士」がうまくいくとは限らない
職場は「ドレッシング状態」にならなくていい
個人と組織のサンドイッチ作戦
第5章 違和感を乗り越えるための話し方・振る舞い方
役割の実行を後押しする「面談」「相談」「雑談」「対話」
「大丈夫です」の複雑さ
「よかれと思って」が残念なワケ
待ちの姿勢ばかりの部下に「自走してほしい」と伝えたい
スタンドプレーが多い部下に「チームで仕事をしよう」と伝えたい
コミュ力が高い人の「真の使命」は、相手に合った手段を選ぶこと
危うい場面で役に立つ「否定しない技術」
会議時間を短縮すれば「生産性」が高まるのか?
「困っている人」は「決めつけていない人」
第6章 「いてくれてありがとね」から始める組織改革
「いい人材がいない」と嘆く人は組織の価値を見落としている
「重すぎない信頼関係」のススメ
「健全に疑う」のススメ
100点を取ってきた子どもに「偉いね」と言ってはいけない理由
100%わかり合うことは無理、それでも「訂正」し合うことはできる
「自分のまま働く」ために
解説 ―― 坂井風太