職場でのすれ違いはなぜ起きるのか。2万人をみてきた組織開発コンサルタントで『組織の違和感』の著者である勅使川原真衣氏が、実際に職場に分け入って考えた、組織変革のコツを伝えます。(構成/ダイヤモンド社書籍編集局)

組織の会議Photo: Adobe Stock

会議室での沈黙

「何か意見ある人?」

 会議の終盤、上司がそう問いかける。

 少し間があって、誰も口を開かない。

「本当にない? 何でもいいんだけど」

 それでも沈黙。

 結局、「じゃあ、この方向で進めます」と上司がまとめ、会議は終わる。

 ところが会議室を出た瞬間、

「いや、あれはちょっと無理じゃない?」
「私もそう思ってた」
「たぶん現場は回らないよね」

 と、急に意見が出てくる。

 こんな光景に、心当たりはないでしょうか。

 上司からすると、「だったら会議で言ってよ」と思うかもしれません。意見を求めたのに誰も言わなかったのだから、部下の主体性の問題に見えます。

「最近の若手は受け身だから」「自分の意見を持っていないから」と考えたくなるかもしれません。

 でも、そこで人の性格や能力の問題にしてしまうと、大事なことを見落とすおそれがあります。

「どう思う?」の曖昧さ

 そもそも、「意見を言ってください」という問いは、意外と難しいものです。

 何について意見を求められているのか。今はアイデアを広げる時間なのか、それとも決定する時間なのか。上司の案に反対していいのか。現実的な問題点を指摘してほしいのか。

 それがわからないまま「自由に意見を」と言われても、人はなかなか話せません。

 たとえば上司が20分かけて新しい企画を説明したあと、「どう思う?」と聞いたとします。

 上司としては率直な意見がほしい。しかし部下から見ると、すでに相当な時間をかけて準備された案です。

「ここからひっくり返していい話なのだろうか」
「反対するなら、代案まで出さないといけないのでは」
「上司はもうやりたいと思っているのでは」

 そう考えて、口を閉じることがあります。

 これは「意見がない」のではありません。

 どこまで言っていいのかわからないのです。

即座に発言できることだけが優秀さではない

 さらに、人によって考え方のスピードや方法も違います。

 その場で話しながら考えられる人もいれば、一度持ち帰って整理すると、よい意見が出る人もいます。口頭より、文章のほうが正確に考えを伝えられる人もいます。

 それなのに、「会議で即座に発言できること」だけを積極性の基準にしてしまえば、本来あったはずの意見を取りこぼしてしまいます

 組織では、人を変えようとする前に、人と環境の「組み合わせ」を見ることが大切です。

「どう思う?」ではなく、「この案の懸念点を一つ挙げてください」と聞く。

 会議の前に資料を共有して、考える時間をつくる。

 最初に上司の意見を言わず、メンバーから先に考えを出してもらう。

 口頭だけでなく、チャットやメモでも意見を受け付ける。

 こうした小さな調整だけで、今まで黙っていた人から意外な意見が出てくることがあります。

「どうせ変わらない」という諦めが蔓延する前に

 そして、もう一つ忘れてはいけないのが、「出てきた意見をどう扱うか」です。

 せっかく反対意見を言ったのに、「でも現実的には難しいよね」とすぐ退けられる。何を言っても結論は変わらない。

 そんなことが続けば、人は「ここでは黙っていたほうがいい」と学習します。

 誰も意見を言わない会議を見て、違和感を覚えたなら、その感覚は正しい。ただし変えるべきなのは、黙っている相手ではありません。

「なぜ誰も話さないのか」ではなく、「この場は、本当に話せるようにつくられているだろうか」と考えてみる。

 人を会議に合わせるのではなく、会議の設計自体を調整する。

 沈黙は、相手に問題がある状態ではありません。

 組織のつくり方を見直すべきだという、小さなサインなのです。