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なぜ高級香水ブランドは、『お試しセット代』を本品購入時に使えるようにするのか?Photo: Adobe Stock

無料で試してもらうより、
有料で売ったほうが本品につながる理由

 高級香水ブランドのオンラインストアを見ると、複数の香りを少量ずつ詰め合わせた「ディスカバリーセット」が販売されていることがあります。

 一つひとつの容器に入っている香水は数ミリリットル程度です。それでも無料サンプルではなく、数千円から一万円近い価格で販売されることがあります。

 ところが、そのセットを購入すると、「一定期間内にフルボトルを購入すれば、ディスカバリーセット代に相当する割引コードが使えます」という特典が付いてくる場合があります。

「後から返してくれるのなら、最初から無料で試させればよいのでは?」

 そう思う人もいるでしょう。

 実は、この仕組みの目的は、少量の香水を販売して利益を得ることだけではありません。

 無料サンプルではなく有料商品にすることで、本当に香水を探している人を集めます。そのうえで、支払ったお試し代を「本品を買えば取り戻せるお金」に変えることで、試しただけで終わらず、フルボトルの購入まで進みやすくしているのです。

香水は、店頭で一度嗅いだだけでは選べない

 香水は、見た瞬間に違いが分かる商品ではありません。

 紙に吹きかけた香りと、実際に自分の肌につけた香りでは、感じ方が異なることがあります。また、つけた直後と数時間後でも香りは変化します。

 店頭で複数の香水を一度に試すと、途中から香りの違いが分からなくなることもあります。

 さらに、高級香水のフルボトルは決して安い買い物ではありません。

「店頭では良いと思ったけれど、毎日使うには香りが強かった」
「時間が経った後の香りが、自分の好みと違った」
「ほかの香りも試してから決めればよかった」

 という失敗を考えると、購入を先延ばしにしたくなります。

 そこでブランドは、複数の香りを少量ずつ自宅で試せるディスカバリーセットを用意します。

 朝につけて一日過ごしたり、仕事の日と休日で使い分けたり、家族や友人の反応を確かめたりできます。

 高額なフルボトルを買う前に、実際の生活の中で試せるようにすることで、「自分に合わなかったらどうしよう」という購入前の不安を小さくしているのです。

無料サンプルでは
「いつか試そう」で終わってしまう

 では、なぜ無料で配らず、わざわざ有料で販売するのでしょうか。

 無料でもらったサンプルは、受け取ったことで満足し、そのまま引き出しの中に入れてしまうことがあります。お金を払っていないため、「今日試さなければもったいない」という気持ちが起こりにくいからです。

 一方、自分で選び、お金を払って購入したディスカバリーセットは、無料でもらったサンプルとは扱いが変わります。

「せっかく買ったのだから、全部試してみよう」
「どれが自分に合うか、きちんと比べよう」

 と考え、一つひとつの香りに向き合うようになります。

 さらに、有料にすることで、単に無料のものが欲しい人と、本気で自分に合う香水を探している人を分けることができます。

 ディスカバリーセットを購入する人は、すでにそのブランドに興味を持ち、香水を選ぶためにお金を払う意思がある人です。

 つまり、有料のお試しセットは商品であると同時に、フルボトルを購入する可能性の高いお客様を集める「入口商品」でもあるのです。

「払った代金を無駄にしたくない」が購入理由になる

 ディスカバリーセットの本当の仕掛けは、購入後に使える割引コードにあります。

 例えば、ディスカバリーセットに8000円を支払い、その後フルボトルの購入時に8000円分の割引コードが使えるとします。お客様は、単に「本品が8000円安くなる」とは感じません。

「すでに払った8000円を、本品の代金として使える」と受け止めます。

 すると、ディスカバリーセットの代金は、単なるお試し代ではなく、「本品を買えば取り戻せるお金」に変わります。何も買わなければ、支払ったお金はお試しだけで終わります。

 しかしフルボトルを購入すれば、その金額が無駄にならず、本品の購入代金に変わります。人は、すでに手にしている価値を失うことに強い抵抗を感じます。

 そのため、

「せっかく使える割引コードがあるのだから、期限が切れる前に買おう」
「お試し代が無駄になるくらいなら、一番気に入った香りを注文しよう」

 という新しい購入理由が生まれます。

 香水そのものが欲しいという理由だけでなく、「すでに払った代金を無駄にしたくない」という損失回避の心理が、フルボトルの購入を後押しするのです。

有効期限が「いつか買う」を
「今買う」に変える

 割引コードには、使用期限が設けられている場合があります。期限がなければ、お客様は、「気に入った香りは決まったけれど、購入はまた今度でいい」と先延ばしにするかもしれません。

 しかし、割引コードに一定の使用期限が設けられていると、判断を先送りするほど、割引を使えなくなる可能性が高まります。

 すると、お客様の意識は、「この香水を買うべきか」という判断から、「どの香りに割引コードを使うか」という判断へ変わります。

 すでに複数の香りを試し、その中からお気に入りを絞り込んでいるため、ゼロから商品を選ぶ必要もありません。

 有料のお試しセットで購入意欲の高い人を集め、自宅で比較する時間を与え、最後に期限付きの割引コードで決断を促す。ディスカバリーセットは、試用から本品購入までの流れをあらかじめ設計した商品なのです。

他のお店でも使える
「お試し代を本契約に充当する」設計

 ・家具店
 椅子やソファの自宅試用を有料にし、購入した場合は試用料金を商品代金から差し引く。無料貸し出しよりも購入意欲の高い人を集めながら、自宅で使わなければ分からない座り心地やサイズ感を確かめてもらえる。

 ・化粧品店
 複数のスキンケア商品を試せる有料トライアルセットを販売し、一定期間内に本品を購入した場合は、セット代相当のクーポンを付与する。肌との相性に対する不安を減らしながら、ライン購入へつなげられる。

 ・スクール/教室
 有料の体験講座を実施し、一定期間内に本講座へ申し込んだ場合は、体験料を受講料に充当する。無料体験だけを渡り歩く人を減らし、本気で学びたい人に参加してもらいやすくなる。

まとめ

 高級香水ブランドが、ディスカバリーセットの代金相当を本品購入時に返すことがあるのは、単にお客様を値引きで喜ばせるためではありません。

 ・香りを自宅で時間をかけて試せるようにすることで、高額なフルボトルを買う不安を小さくし
 ・無料サンプルではなく有料商品にすることで、本気で香水を探しているお客様を集め
 ・自分でお金を払ったことで、「すべての香りをきちんと試そう」という行動を促し
 ・お試し代を本品購入時の割引に変えることで、「支払った代金を無駄にしたくない」という損失回避の心理を働かせ
 ・割引コードに期限を設けることで、「いつか買う」という先延ばしを「今選ぶ」に変える

 という、お試し商品の販売からフルボトルの購入までを一つにつなげ、自然に高額商品の購入を後押しする販促の仕掛けなのです。

岡本達彦(おかもと・たつひこ)
販促コンサルタント
現場目線ですぐ使えるマーケティングを伝える第一人者。
広告制作会社時代に100億円を超える販促展開を見て培った成功体験をベースに、むずかしいマーケティングや心理学を使わず、
アンケートやマンダラ等を活用して、誰でも売れる広告を作れる手法を体系化する。
業界を問わず即効性が高く、お金をかけずに売上を上げられることから、全国の商工会議所・経済団体などからセミナー依頼が殺到する。
初の著書『「A4」1枚アンケートで利益を5倍にする方法』(ダイヤモンド社)は、Amazon上陸15年、「売れたビジネス書」50冊にランクインする。
他の著書に、『お客様に聞くだけで「売れない」が「売れる」に変わるたった1つの質問』
『あらゆる販促を成功させる「A4」1枚アンケート実践バイブル』
『「A4」1枚チラシで今すぐ売上をあげるすごい方法』『「マンダラ広告作成法」で売れるコピー・広告が1時間でつくれる!』(以上、ダイヤモンド社)等がある。