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なぜレンタカー会社は、「免責補償」のうえに、さらに別の補償を用意するのか?Photo: Adobe Stock

「補償に入ったから安心」と思ったのに、
まだ支払いが残る理由

 旅行先でレンタカーを借りるとき、受付で「免責補償制度には加入されますか?」と聞かれることがあります。

 事故を起こしたときの高額な負担が心配になり、加入することにすると、さらに、「NOC(ノンオペレーションチャージ=営業補償料)のお支払いも免除される、上位の補償プランもあります」と案内されることがあります。

「免責補償に入ったのだから、事故のときの負担はなくなるのでは?」

 そう思いながらも、数百円程度の追加料金なら安心を優先しようと、上位プランを選んだ経験はないでしょうか。

 実はレンタカーの事故で発生する可能性があるのは、車の修理などに関する「保険の免責額」だけではありません。修理や清掃をしている間、その車をほかのお客様に貸せなくなることに対する営業補償として、「NOC」が別に発生することがあります。

 全国レンタカー協会も、NOCは車両の修理代や保険の免責額とは別に支払うものであり、一部のレンタカー事業者では、免責額を補償する制度とNOCを補償する制度を設けていると説明しています。

 つまり、レンタカー会社が補償を何段階にも分けているのは、同じ補償を重ねて販売しているからではありません。

 お客様が感じる不安の大きさに合わせて「安心の段階」を作り、少額の追加料金を選びやすくする、巧妙な料金設計なのです。

「車の損害」と「貸せない損失」は、別のもの

 まず理解しておきたいのが、「免責額」と「NOC」の違いです。

 レンタカー料金には、一定の自動車保険や補償が含まれているのが一般的です。

 しかし事故が起きて保険が適用されても、その一部を利用者が自己負担する場合があります。この自己負担額が「免責額」です。

 免責補償制度に加入すると、一定の条件のもとで、この免責額の支払いが免除されます。

 一方、NOCは保険の自己負担額ではありません。

 事故、故障、盗難、汚損などによって車両の修理や清掃が必要になると、その車は一定期間、営業に使えなくなります。その休車期間中の営業損失の一部を利用者が負担するのが、NOCです。

 したがって、免責補償に加入していても、NOCまで自動的に免除されるとは限りません。

 この二つを分けることで、レンタカー会社は、基本料金に含まれる保険・補償
 ↓
 保険の免責額をなくす補償
 ↓
 NOCの支払いまでなくす上位補償

 という「安心の階段」を作ることができます。

 お客様は最初から最上位プランの総額を提示されるよりも、一つずつ説明を受けながら、「そこまで入ったのなら、あと少し追加して全部安心にしておこう」と考えやすくなるのです。

一つの不安を消すと、残った不安が大きく見える

 免責補償への加入を決める前、お客様の頭の中には、「事故を起こしたら、いくら請求されるのだろう」
という漠然とした大きな不安があります。

 ところが、免責補償によって一つの負担がなくなると、次にNOCという別の負担が意識されます。

 それまで一つに見えていた「事故時の負担」が分解され、

「免責額はなくなる」
「しかし、NOCは残る」

 という状態になるのです。

 人は、一部だけ危険が残っている状態を知ると、その残った危険が気になりやすくなります。

 特にレンタカーのように、事故が起きるかどうかも、起きた場合にどの程度の負担になるかも分からない商品では、「万一の支払いを残したくない」という気持ちが強くなります。

 そのため、免責補償に加入した人ほど、「ここまで安心を買ったのに、NOCだけ自己負担で残すのは中途半端だ」と感じ、上位プランを選びやすくなるのです。

「追加で数百円」が、安心を安く感じさせる

 もう一つのポイントは、上位補償の見せ方です。

 最初からレンタカー料金に最上位の補償料金を加えた総額だけを提示すると、お客様は、「レンタカー代が高い」と感じる可能性があります。

 しかし、まず基本料金を見せ、その後に免責補償を案内し、さらにNOCまで免除されるプランを「あと数百円」として提示すると、判断の基準が変わります。

 比較対象がレンタカー料金全体ではなく、すでに加入しようとしている免責補償との差額になるからです。

 例えば、「安心のために一日1650円払う」と考えると高く感じても、「免責補償に、あと550円追加すればNOCも免除される」と言われると、追加負担が小さく見えます。

 これは、すでに選んだプランを基準にして、差額で上位商品を検討してもらう方法です。

 さらに事故時に数万円の負担が発生する可能性と、今支払う数百円を比べることで、「数百円を惜しんで、あとで数万円を払うことになったら後悔する」という損失回避の心理も働きます。

 レンタカー会社は、不安をあおっているだけではありません。お客様が必要とする安心の範囲に合わせて選べるようにしながら、少額の差額で上位プランへ進める料金構造を作っているのです。

他のお店でも使える「安心を段階化する」設計

 ・家電販売店
 メーカー保証に加えて、「保証期間の延長」「落下・水濡れへの対応」「修理中の代替品貸し出し」など、補償範囲の異なる段階を作る。お客様は自分が避けたい損失に合わせて、上位保証を選びやすくなる。

 ・旅行会社
 基本旅行代金に加えて、「通常のキャンセル補償」「急な病気や交通機関の遅延にも対応する上位補償」など、安心の範囲を段階的に広げる。基本補償との差額で示すことで、上位プランへの抵抗を下げられる。

 ・レンタル用品店
 通常の故障補償に加えて、「破損補償」「紛失補償」「代替品の即日発送」などを組み合わせた上位プランを用意する。すべてを基本料金に含めるのではなく、必要な安心の範囲を選べるようにする。

まとめ

 レンタカー会社が、免責補償の上にNOCまで免除する別の補償を用意するのは、同じ補償を二重に販売するためではありません。

 ・事故時に発生する可能性がある「保険の免責額」と「休車期間の営業補償」を分けて示し
 ・基本補償、免責補償、NOCまで免除する上位補償という「安心の階段」を作り
 ・上位プランを総額ではなく「あと数百円」という差額で見せることで、追加負担を小さく感じさせ
 ・将来の大きな負担を避けたいという損失回避の心理によって、より安心できるプランを選びやすくする

 という、お客様自身に必要な安心の範囲を選んでもらいながら、自然に客単価を引き上げる料金設計なのです。

岡本達彦(おかもと・たつひこ)
販促コンサルタント
現場目線ですぐ使えるマーケティングを伝える第一人者。
広告制作会社時代に100億円を超える販促展開を見て培った成功体験をベースに、むずかしいマーケティングや心理学を使わず、
アンケートやマンダラ等を活用して、誰でも売れる広告を作れる手法を体系化する。
業界を問わず即効性が高く、お金をかけずに売上を上げられることから、全国の商工会議所・経済団体などからセミナー依頼が殺到する。
初の著書『「A4」1枚アンケートで利益を5倍にする方法』(ダイヤモンド社)は、Amazon上陸15年、「売れたビジネス書」50冊にランクインする。
他の著書に、『お客様に聞くだけで「売れない」が「売れる」に変わるたった1つの質問』
『あらゆる販促を成功させる「A4」1枚アンケート実践バイブル』
『「A4」1枚チラシで今すぐ売上をあげるすごい方法』『「マンダラ広告作成法」で売れるコピー・広告が1時間でつくれる!』(以上、ダイヤモンド社)等がある。