周りと同じように波風を立てずに大人しくしていれば、少なくとも悪目立ちはしない――そう思っていたのに、気づけば自分だけがなかなか評価されず、同期はどんどん出世していく。そんなモヤモヤを感じたことはないでしょうか。『人生の経営戦略――自分の人生を自分で考えて生きるための戦略コンセプト20』の著者・山口周さんは、出世する人としない人の差は、実績や能力ではなく「みんなと同じことをするかどうか」にあると言います。ゲーム理論における「絶対優位の戦略」を人生に活かす方法について聞きました。(構成/小川晶子、ダイヤモンド社書籍編集局)
Photo: Adobe Stock
「みんなと同じ」は本当に安全なのか
――同じように頑張っているつもりなのに、なぜか出世していく人と、そうでない人がいます。「偉い人に図々しいお願いをできる人が得をする」といった話も聞きますが、周りと同じように大人しくしているほうが安全だという感覚もあります。実際のところ、どうなのでしょうか。
山口周氏(以下、山口):みんなと同じなら安全だという感覚、実はよく考えると危ういんです。私たちの人生は日々、選択と意思決定の連続であり、「みんなと一緒」を選ぶことは、一見安全に見えて、実は「当たっても埋没し、外れても埋没する」という、リターンの期待できない選択であることが少なくありません。
これを具体的に考えるために、ひとつ思考実験をしてみましょう。
あなたは無名の若手エコノミストで、自分の名前を売り出したいと考えています。あなたの経済予測の確率分析は「株価上昇6割、株価下落4割」です。
さて、このときあなたなら、「株価上昇」と「株価下落」のどちらを世の中に訴えますか?
普通に考えれば「株価上昇」を訴えるところですが、本当にそれでいいのでしょうか。
エコノミストとして名前を売るなら、考慮すべきは「他の多くのエコノミストがどんな予測をするか」です。調べたところ、有名どころのエコノミストの9割が「株価上昇」を予測していることがわかりました。圧倒的多数の有名エコノミストが「株価上昇」を訴えることがわかっているとき、あなたにとっての絶対優位の戦略は「株価下落を訴える」ことです。
利得を「場合分け」して考える
――ゲーム理論における「絶対優位の戦略」とは、自分の持っている選択肢の中で一番リターンが大きくなる選択肢のことでしたね。この場合、自分の分析に沿ってはいても、有名エコノミストと同じことを言ったのでは埋もれてしまい、リターンはないに等しいと。
山口:そういうことです。予測通りに株価が上がった場合、あなたが「上昇」を予測していたら、予測は当たりますが、他の有名エコノミストも同じ予測なので埋没したままです。「下落」を予測していたら予測は外れますが、元から無名なので特に実害もありません。プラスもマイナスもゼロです。
次に、株価が下落した場合を考えます。「上昇」を予測していたら外れますが、有名エコノミストも全員外れるので、やはり状況は変わらずです。しかし「下落」を予測していたら、あなたの予測だけが当たり、「株価下落を言い当てた新進気鋭のエコノミスト」として、知名度や評判といった社会資本が一気に成長する可能性があるんです。
つまり、無名で売り出し中という条件を踏まえれば、たとえ自分の分析で「上昇の確率が高い」と出ていても、有名エコノミストが「上昇」を訴えている限り、逆バリして「下落」を訴えることが絶対優位の戦略になるのです。
「正しい予測をする」ことと「ゲームに勝つ」こと
――なるほど。先ほどの「出世する人としない人の差」も、同じように場合分けすれば見えてくるということですね。
山口:そうです。「大人しく周りに合わせる」道は、うまくいってもとくに何も起きず、うまくいかなくてもとくに何も起きません。しかし、「偉い人に図々しくお願いする」道は、うまくいかなければとくに何も起こらず、うまくいけば大きなリターンがあります。
「ゲームに勝つ」という観点からすれば、これが合理的な選択肢になり得るのです。実際、ジェフリー・フェファー氏の出世の研究によると、出世する人は偉い人たちにお願いをしている回数が多いという結果が出ています。
自分がいまどんなゲームを戦っていて、それぞれの選択肢がどんな利得をもたらすのか。「みんなと同じ」を選ぶ前に、一度立ち止まって場合分けしてみることをおすすめします。





