「今の仕事にやりがいを感じない。本当にやりたいことのために、思い切って転職したい」――そう考えたことのある人は多いはずです。『人生の経営戦略――自分の人生を自分で考えて生きるための戦略コンセプト20』の著者・山口周さんは、キャリアイベントでこうした相談を受けるたびに、決まって同じ質問を返すといいます。「その仕事は、今の仕事を辞めないと関われないのですか?」。複数の仕事を持つ時代に潜む落とし穴と、山口さん自身のキャリアを変えた「週1回のブログ」の話を聞きました。(構成/小川晶子、ダイヤモンド社書籍編集局)

運をつかみとる人がやっていること・ベスト1Photo: Adobe Stock

「理想の職業」など存在しない

――「今の仕事にやりがいを感じない。ビジョンに共感できる組織に思い切って転職しようと思うが、どう思うか」という相談を、山口さんはよく受けるそうですね。

山口周氏(以下、山口):ええ、非常に多いです。そして私の回答は常に一緒で「その組織は、現業を辞めないと関われないのですか?」というものです。要するに、ワガママを言って、現業を辞めずに兼業として関わってはどうか、と言っているわけです。

人生には大きな不確実性が伴うため、選択肢が減るようなアクションは基本的に常に悪手と考えるべきです。外から見ていかにビジョンに共感できそうな組織でも、入ってみたら上司や同僚と全くウマが合わなかった、ということだってありえますよね。であれば、本業を続けながらできる範囲で関わってみて、本当に自分の時間資本を投入するに値する組織かを見極められるまで、判断を留保する方が賢明です。

世の中に「理想の職業」などというものはありません。それぞれの仕事には固有の長所・短所が必ずあります。だから、虚像でしかない理想の職業を追い求めるよりも、生活の糧を得る「ライスワーク」と自己実現のための「ライフワーク」というように、複数の仕事の長所と短所を補完的にうまく組み合わせることを追い求めるべきなのです。

落とし穴は「戦略資源の逐次分散投入」

――今の仕事を辞めずにやりたいことを並行してやればいい、というのは心強いですが、兼業・副業は良いことばかりというわけでもないのでしょうか。

山口:そのとおりです。私は、兼業・副業が常態化することで生まれるキャリアへのネガティブな影響もあると考えています。

それは「戦略資源の逐次分散投入」です。古今の戦略家の多くが、戦略資源を空間的・時間的に分散して投入することの危険性に警鐘を鳴らしています。

人生には、レーザーのように自分の時間・能力・精神を集中させなければならない時期が必ずあります。いわゆる「勝負どころ」ですね。この見極めができず、頭でっかちに「ポートフォリオが重要だ」と資源を分散させてしまうと、集中していれば達成できたはずの成果や成長が、中途半端なレベルで終わってしまうかもしれません。集中と分散の度合いは、状況に応じてダイナミックに変動させなければならないのです。

キャリアを変えた「週1回のブログ」

――山口さんご自身は、どうポートフォリオを組んできたのですか。

山口:私のポートフォリオが大きく変わったのは、40代から本業のコンサルティングのウェイトを落とし、著作やコンテンツ制作に関する領域のウェイトを重くしたことによってです。

30代半ば、コンサルティング会社で「このままいけばパートナーかなあ」と考えていた頃、上司にあたるパートナーたちのあまりの多忙ぶりを見て、ふと考えたんです。「なぜ職位が上がるほど忙しそうなのか?」と。答えはシンプルで、自分の時間を他人に売るビジネスモデルの構造上、自分の価値が上がるほど機会費用が大きくなるからです。

この構造から抜けるには「自分以外の何かに働いてもらう」しかありません。私はそれを「自分の生み出したコンテンツ」に設定しました。

そして週に1回、必ずまとまった論考をブログとして上げることをノルマにして続けたところ、5年ほど経ったタイミングでプロの編集者から「本にしませんか」と声をかけていただき、最初の出版につながりました。それが次の出版へ、そして講演やラジオや国際機関の仕事へと数珠のようにつながっていったんです。こうして、仕事のポートフォリオも収入のポートフォリオも大きく変わることになりました。

私のポートフォリオの転換は、「運が良かった」というのもあると思います。でも、自分から不確実性の中に身を投げ出していかなければ、「運を人生に取り込む」ことすらできないのです。