「自分はプロジェクトを失敗させたことがない」――企業研修で時折耳にする自慢話に対して、『人生の経営戦略――自分の人生を自分で考えて生きるための戦略コンセプト20』の著者・山口周さんは、「若い時に失敗経験がないというキャリア自体が、すでに失敗だ」と手厳しい評価を下します。人事の世界のデファクトスタンダードである「経験学習理論」において、学習の起点となる「経験」とは何を指すのか聞きました。(構成/小川晶子、ダイヤモンド社書籍編集局)
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学習とは「世界が違って見えるようになること」
――うまくいっているはずなのに、「なぜか成長が止まっている気がする」という人は多いと思います。この感覚はどこから来るのでしょうか。
山口周氏(以下、山口):それを理解するには、まず「学習」とは何かを捉え直す必要があります。
学習とは「なんらかのスキルや知識を、新たに獲得すること」だというイメージを持っている人が多いのではないでしょうか。
経営学の組織行動論では、学習を少し異なる角度から定義します。学習とは「経験を通じて自分の信条・習慣・思考様式を変化させることで、同じインプットに対して、より良いアウトプットを出せるようになること」。ここには「何かを加える」というニュアンスが全く含まれていないんです。学習とは「自分という認知システムが変容すること」であり、その変容によって「世界がそれまでとは違って見えるようになること」なのです。
この分野のデファクトスタンダードである経験学習理論を唱えたのは、教育心理学者のデイヴィッド・コルブです。コルブによれば、私たちの学習は「具体的経験」を起点とする省察と抽象化のサイクルとして捉えられます。
「経験」とは「想定外の結果に出会うこと」
――どんな経験をするかが大事ということでしょうか?
山口:具体的経験が起点となりますが、ここでいう経験は私たちが通常の会話で用いる「経験」とはニュアンスが違います。
「予測しなかった結果に出会うことができる機会」のことなんです。
「こうなるはずだ」と思って取った行動が、思いがけず想定外の結果を招いたとき、人は自己のシステムの変容を促すきっかけを得るんです。
経験が「想定外の結果に出会って困惑すること」なのだとすれば、私たちが望ましいと考えている「何もかも想定通りにうまくいっている」状態は、「学習の停滞した状態」と言い換えられます。失敗を避けて無難な仕事ばかりを選び続けているような状態は、まさにこれに当てはまります。
まれに「自分はプロジェクトを失敗させたことがない」と自慢気に話す人がいますが、若い時に失敗経験がないキャリア自体がすでに失敗だ、とも言えるのです。若い時期の失敗は、その後の長いキャリアの中でリターンとして返ってくる期間が長いぶん、投資として見たときの価値が大きいのですから。
自ら機会を創り出し、機会によって自らを変えよ
――若いうちに失敗の経験を積んだほうがいいわけですね。
山口:そうです。ただ、これがなかなか難しいんですよ。
現在の日本社会は過保護になっていて、若い人に思いっきり失敗させるということがなかなかできないんです。
しかも、日本企業はバブル期に大量採用を行い、50代の層が厚くなっています。意識的に質の良い仕事を若い世代に回さない限り、若年層で「経験のデフレ」が起きてしまうんです。
組織にとって経験は資源です。投資としての価値を左右するのは時間の長さですから、本来はできるだけ若い人に投資すべきです。しかし、たとえばグループ企業の経営の立て直しといったことは良質な経験ができる貴重な機会ですが、これを定年間近の年長者に与えてしまうようなことを日本企業は平気でやっています。
リクルート創業者・江副浩正さんはこう言っています。「自ら機会を創り出し、機会によって自らを変えよ」。機会が与えられるのを受動的に待っていれば、貴重な時間という資本を、さしてリターンのない活動に投下することになります。能動的に自ら「良質な経験を得られる機会」を創り出していく姿勢が必要なんです。
「自分には権限がないから動けない」と言う人がいますが、考え方が逆で、「動き出さないから権限が与えられない」のです。
パワーというのは許可証ではなく一種の現象であり、その現象は「自ら動く人」の周囲に発現するのです。自ら成長の機会を創り出すことは、スキルや実績を積むだけでなく、リーダーシップや創造力も養うはずです。





