努力しているつもりなのに、周りと比べてなかなか成長を実感できない――そんな焦りを感じたことはないでしょうか。『人生の経営戦略――自分の人生を自分で考えて生きるための戦略コンセプト20』の著者・山口周さんは、長年の人材育成の経験から、「伸びる人」と「伸びない人」を分ける条件はたった1つだといいます。中学生の王貞治に「左打ちで打ってごらん」と声をかけたコーチが、少年のある反応を見て「この子は伸びる」と直感したエピソードとあわせて、成長するための実践的な方法を聞きました。(構成/小川晶子、ダイヤモンド社書籍編集局)

人生で、成長する人としない人を分けるたった1つの違いPhoto: Adobe Stock

伸びる人は「素直」

――努力しているのに成長を実感できない人と、着実に伸びていく人がいます。この差はどこにあるのでしょうか。

山口周氏(以下、山口):長らく人材育成に関わってきた立場から言うと、伸びる人に共通する特徴は「素直さ」、伸びない人の特徴は「頑固さ」です。

プロ野球で通算868本塁打を放った王貞治さんを発掘した荒川博コーチは、河川敷で右打ちしていた中学生の王さんに「左打ちで打ってごらん」と声をかけたところ、即座に「はい」と答えて痛烈な二塁打を放ったのを見て、その素直さに「この子は伸びる」と直感したそうです。

――「素直に人の言うことを聞く」というのは、なんとなく受け身な印象もあります。なぜそれが成長につながるのでしょうか。

山口:学習は「意識を変えること」ではなく、まず「行動を変えること」で発動することがしばしばあるからです。私たちの脳は非常に保守的で、なかなか意識を変えられません。だから、難しい「意識を変える」ことをせずに、まず行動を変えてみる。行動が変われば結果が変わり、結果が変わることで最終的に意識が変わる。素直な人ほど、この「まず行動を変える」ことに躊躇がないんです。

他社・他人の真似をする「ベンチマーキング」という手法

――「まず行動を変える」と言われても、具体的に何をどう変えればいいのか、悩む人も多いと思います。

山口:ここで役立つのが「ベンチマーキング」という考え方です。他者の成功事例やパフォーマンスを基準に、自らのプロセスや成果を比較・評価し、改善策を導き出す手法で、もともとは企業の経営手法として広まりました。

面白いのは、画期的な成果が得られた事例では、一見何の関係もない遠い領域を対象にしていることが多いという点です。

たとえばルーヴル美術館は2000年代初頭、導線がわかりにくい、迷って疲れる、お目当ての展示物が混雑して見えないという来館者の不満に直面し、テーマパークであるディズニーランドの運営手法をベンチマークしました。結果、訪問者体験が向上し、来場者数が増加したのです。

真似るべきは「能力」ではなく「行動」と「時間配分」

――こうした発想を、私たち個人が自分の成長のために実践するには、どうすればいいでしょうか。

山口:3つのステップがあります。①課題認識を持つ、②ベンチマーク対象を選出する、③とりあえず真似てみる、です。

まず「①課題認識を持つ」ですが、ここで課題のポイントが具体的になるほど、対象を選ぶ力も上がります。「なんとなくうまくいっていない」というぼんやりした認識のままでは、対象を絞ることすらできません。

次に「②ベンチマーク対象を選出する」にあたり特に重要なのは、「能力」ではなく「行動」と「時間配分」に着眼することです。能力は簡単には真似できませんが、行動や時間配分はすぐに真似られます。そして多くの場合、問題を解決する鍵は時間配分にあります。私自身、幾度となくベンチマーキングのプロジェクトを行いましたが、ほぼ全てのケースで時間配分が成果を左右していました。ある小売業の分析では、好業績店舗の店長が業務時間の半分近くをコミュニケーションに割いていたのに対し、低業績店舗の店長は3割程度で、データ分析や資料作成に時間をかけすぎていたのです。

そして「③とりあえず真似てみる」には素直さが重要です。

自分より成長している人、成果を出している人を見つけたら、その人の「能力」に憧れるだけで終わらせず、まずは「行動」と「時間配分」を観察して、素直に真似てみてください。成長を実感できないと感じているなら、意識を変えようと気負う前に、行動をひとつ変えてみることから始めてみてはいかがでしょうか。