ADHD(注意欠如多動症)の当事者で、ASD(自閉スペクトラム症)とADHDの2人の娘さんをもつなちゅ。さん。新刊『ADHDの母が伝えたい 生きづらい女の子が覚えておきたいこと』では、子どもから大人まで一生使える具体的な対応策を伝えている。今回のテーマは、「ありがとう」と「ごめんなさい」。この2つを軽率に言える人が、なぜ強いのか。著者に話を聞いた。(構成/ダイヤモンド社書籍編集局、イラスト/武者小路晶子)

謝罪が先

信頼されない人は「ごめんなさい」より「言い訳」を先に言ってしまう

――職場の人間関係がうまくいっている人に、共通点はありますか。

なちゅ。:「ありがとう」と「ごめんなさい」を、普段から軽率に言えることだと思います。

コミュニケーションがどんなに苦手でも、挨拶と雑談は削らずにどんどんやる。特にこの2つは、いつ言うかなんて考えずに、とりあえず言う。それくらいの軽率さが大事なんです。

相手を持ち上げたり、嘘をつく必要はまったくありません。事実だけを、思い出したその場で言う。それだけです。

仕事でミスをしたとき、指摘を受けたときは、「最初に」ごめんなさいを言います。説明や言い訳は、そのあと。これは順番がとても大事です。

怒りは、火事と同じ性質を持っている

――なぜ、最初に謝るのがそこまで大事なのでしょう。

なちゅ。:ミスというのは、多かれ少なかれ、誰かを苛つかせたり怒らせたりするものですよね。そして怒りは、火事と同じ性質を持っているんです。

小さいうちに消せばボヤで済む。放っておくと、勝手には消えず、燃え広がる。

だから、ミスへの対応は消火活動だと考えてほしいんです。さっさと「ごめんなさい」で初期消火して、対応してもらったら「ありがとうございます」まで言う。ここまでがワンセットです。謝罪で火を消して、感謝で後始末をする。

――時間が経つと、何がまずいのでしょう。

なちゅ。:ミスそのものは、時間が経っても大きくならないんです。大きくなるのは、火のほうなんですね。

放置すると、「わかっていて放置した」という罪がガソリンとして注ぎ足されて、可燃性が上がっていく。最初は「ミスの話」だったのが、放置した瞬間から「不誠実の話」にすり替わる。燃えているものが、変わってしまうんです。

ミスは謝れば済むことが多いけれど、不誠実は信頼の話になるので、消火がとても難しくなります。

火元は、ミスではなく「口の重さ」

――では、なぜ普段から言っておく必要があるのでしょう。

なちゅ。:ここが本題なんですが、言い慣れていない人にとって、「ごめんなさい」の一撃は、とても重いんです。

普段まったく口にしていない言葉を、よりによって一番追い詰められた場面で、初めて持ち上げることになるので。重いから、言えない。言えないから、放置する。放置するから、ガソリンが注がれる。

つまり火元は、ミスではなく「口の重さ」だったりするんですね。

――軽いうちに、回数を稼いでおく。

なちゅ。:そうです。ちょっと仕事を手伝ってもらったら「助かりましたああああ」。些細なことでも「ありがとうございます~」。

中身の軽いうちに回数を稼いでおくと、口が覚えます。習慣になった言葉は、考える前に反射で出る。いざ本物の火が出たとき、迷わず初期消火が打てるんです。

挨拶代わりのごめんなさいとありがとうは、非常時のための消火訓練なんですよ。

ちなみに、「わからない」「困った」「間に合わなそう」も、早めに言います。見積もりを超えそうな時点で、アラートを出すのが大事なので。

忙しい相手には「お手すきのときに声かけてください」と、主導権を渡す形で伝えるといいです。チャットやメールで送っておくと、「言った」という事実が記録にも残りますし。

――それでも取り合ってもらえないこともありそうです。

なちゅ。:早めに言ったのに無視される、フォローがない。それは相手のマネジメントの問題です。自分を責める場面ではありません。

[著者]
なちゅ。
1980年生まれのワーキングマザー。発達障害(ADHD:注意欠如多動症)当事者。中学生と高校生の娘、そして夫も発達障害の特性を強く持つ。長女の発達障害診断をきっかけに、発達障害やそれに関連する分野の独学を開始。以来15年以上、自らの発達障害や子育てについてXを中心に情報発信を行う。仕事でも、障害福祉分野でマネジメント担当をしながら、個人事業主として講師業やスタートアップのサポートに従事。なかでも、自身の経験を活かした発達障害の親子のケアに力を入れている。

[医療監修]
本田秀夫(ほんだ・ひでお)
医師・信州大学医学部教授
1988年東京大学医学部卒。医学博士。専門は発達精神医学。信州大学医学部子どものこころの発達医学教室 教授。信州大学医学部附属病院子どものこころ診療部 部長。長野県発達障がい情報・支援センター「といろ」センター長。