ADHD(注意欠如多動症)の当事者で、ASD(自閉スペクトラム症)とADHDの2人の娘さんをもつなちゅ。さん。新刊『ADHDの母が伝えたい 生きづらい女の子が覚えておきたいこと』では、子どもから大人まで一生使える具体的な対応策を伝えている。今回のテーマは、自己開示。初対面で何をどこまで伝えるかを、どう決めればいいのか。著者に話を聞いた。(構成/ダイヤモンド社書籍編集局、イラスト/武者小路晶子)

自己開示

初対面で自己開示しすぎない

――人間関係で「初対面」のときに気をつけていることはありますか?

なちゅ。:自己開示ではよく失敗してきたので、注意しています。

ADHDは、なんでもかんでも全開示するのが大好きな生き物なんです。思ったことも、事情も、診断名も、聞かれる前に全部出してしまう。隠すという工程が、そもそも苦手なので。

――先に伝えておいたほうが、トラブルは減りそうにも思えます。

なちゅ。:その気持ちはわかります。自分の特性を知っておいてもらったほうがラクだから、全部言っておきたい。

でも、名刺交換してすぐ「実はADHDで」と言われた相手は、びっくりして固まってしまいます。

これは、相手が冷たいからではないんです。そもそも、「ADHD」が専門用語だからなんですね。

診断名を渡されても、ADHDという単語はメジャーにはなっているものの、実際は素人には取り扱い方がわからない。それどころか、相手が持っている偏見や断片的な知識のフィルタで、勝手に誤読されるリスクすらあります。

同じような理由で、親との縁切り、夫婦仲などのセンシティブな情報も、初対面でフルオープンにするのはやめておいたほうがいいです。

感じがいい人は「自分の取扱説明書」を伝える

――では、相手に「感じがいい人だな」と思ってもらうためには、どう伝えればいいのでしょう。

なちゅ。:考えてみれば、家電を買ったときに欲しいのは設計図ではなくトリセツですよね。

中身の仕組みは知らなくても、「こう使えば動く」「ここに水をかけるな」がわかれば扱える。人間も同じで、相手が知りたいのは「この人はどういう仕組みか」ではなく「どう対応すればお互い困らないか」なんです。

――具体的には、どう言い換えるのでしょう。

なちゅ。:「私は忘れることがあるので、チャットでくださいね」とか、「ミスしたら遠慮なく言ってください」と伝えておくのは大事です。。

起こることと、してほしい対応のセットですね。ここまで噛み砕いてあれば、相手はその日から使えます。

そして実は、これは相手への親切でもあるんです。何かおかしいなと思いながら聞けずにいる側にとって、先にトリセツをもらえるのは、戸惑いを伝えていい許可をもらえることでもあるので。

――あえて開示したほうがいい場面もありますか。

なちゅ。:基準はシンプルで、「知ってもらって、してほしいことがあるかどうか」です。

逆に言えば、してほしいことにつながらない情報は、まだ渡さなくていい。

トリセツも、全ページ読まないといけない家電より、最初の1枚で動く家電のほうが、スムーズに扱えますから。

[著者]
なちゅ。
1980年生まれのワーキングマザー。発達障害(ADHD:注意欠如多動症)当事者。中学生と高校生の娘、そして夫も発達障害の特性を強く持つ。長女の発達障害診断をきっかけに、発達障害やそれに関連する分野の独学を開始。以来15年以上、自らの発達障害や子育てについてXを中心に情報発信を行う。仕事でも、障害福祉分野でマネジメント担当をしながら、個人事業主として講師業やスタートアップのサポートに従事。なかでも、自身の経験を活かした発達障害の親子のケアに力を入れている。

[医療監修]
本田秀夫(ほんだ・ひでお)
医師・信州大学医学部教授
1988年東京大学医学部卒。医学博士。専門は発達精神医学。信州大学医学部子どものこころの発達医学教室 教授。信州大学医学部附属病院子どものこころ診療部 部長。長野県発達障がい情報・支援センター「といろ」センター長。