ADHD(注意欠如多動症)の当事者で、ASD(自閉スペクトラム症)とADHDの2人の娘さんをもつなちゅ。さん。新刊『ADHDの母が伝えたい 生きづらい女の子が覚えておきたいこと』では、子どもから大人まで一生使える具体的な対応策を伝えている。今回のテーマは、職場での信用。愛想のよさよりも効くものとは何か。著者に話を聞いた。(構成/ダイヤモンド社書籍編集局、イラスト/武者小路晶子)

信用の正体は、予測可能性
――職場で信用される人には、どんな共通点がありますか。
なちゅ。:裏表がないことです。
信用の正体は、予測可能性なんですね。「どこへ行っても、この人おんなじだな」「ずーっと同じこと言い続けてるな」。こういう人は、多少変わったところがあっても安心されるし、信用されます。
――「愛想のよさ」は、どうでしょう? 効かないのでしょうか。
なちゅ。:どれだけ愛想がよくても、素と演技の二重運用でブレる人は信用されないんです。
裏表をなくせば、ブレようがない。守るべき像がないから、指摘されても崩れるものがない。裏表がないことは、最強の武装なんですよ。
「できるフリ」は、一回では終わらない
――できないことを隠したくなる気持ちは、誰にでもあると思います。
なちゅ。:できないことを隠すには、常に取り繕い続けるエネルギーが要ります。隠している限りフォローは受けられず、ボロが出る恐怖と一緒に働き続けることになる。
しかも「仕事ができるフリ」は、一回では終わらないんです。一度やったフリを守るために、次のフリが必要になる。
繰り返すうちに、実物より大きな「できてる自分」の像がどんどん肥大化していって、やがて本人がその像を守る係になってしまうんですね。
――最終的にはどうなりますか?
なちゅ。:指摘を認めることができなくなります。認めた瞬間、積み上げた像ごと崩れるので。だから逆ギレや言い訳や隠蔽で、必死に守るしかなくなる。
職場にいる「絶対に非を認めない人」は、性格が悪いのではなくて、この構造にはまっているだけだったりします。誰でも、「できるフリ」を繰り返せばこの牢屋に入りますし、牢屋は入るほどに出口が遠くなるんです。
――さらに深刻な問題があるそうですね。
なちゅ。:「できるフリ」を続けて、「できない自分」から目をそらし続けると、そのうち「自分はできないんだ」という自覚そのものが消えていきます。
「できていない自分」が見えなくなった人には、成長も改善もなくなります。仕事のスキルが年齢とともに伸びる人と伸びない人は、才能ではなく、ここで分かれるんだと思っています。
やらかしたら隠さず「やらかしました!!」と言う
――そこから降りるには、どうすればいいのでしょう。
なちゅ。:また結論に戻るのですが、やはり裏表をなくすことです。話し方や所作を全部整えるのは無理でも、これなら特性に関係なく守れるので。
自分の能力の限界を見極めること。できない自分に誠実であること。ありがとうとごめんなさいをはっきり言うこと。苦手とできませんを隠さないこと。やらかしたら隠さず「やらかしました!!!!」と自分から言うこと。
……などなど、自分を守る一線を「仕事ができる」の側ではなく、その逆側に置くようにしています。
――空気を読むことより、そちらが優先だと。
なちゅ。:空気は読めなくていいし、雑談が下手でもいいんです。この一貫性が積み上げる信用は、仕事という場所で、仕事そのものができることよりもはるかに重宝されて、愛されるスキルなので。
白状すると、私はもう長いこと擬態をしていません。忘れるくらいしていません。今はむしろ、先に素を出して「私はこういう人間です」と自分から情報を渡す側です。
それでも、若い頃、必死で擬態していた頃よりも、仕事は回るし、信用も積めています。SNSでも、取材でも、この本でも、私はずっと同じことを言い続けている。それが一番ラクで、一番強いからです。
「裏表がない」という最終防衛ラインさえ守れていれば、擬態は少しずつ手放していけますし、手放すほどラクになります。
なちゅ。
1980年生まれのワーキングマザー。発達障害(ADHD:注意欠如多動症)当事者。中学生と高校生の娘、そして夫も発達障害の特性を強く持つ。長女の発達障害診断をきっかけに、発達障害やそれに関連する分野の独学を開始。以来15年以上、自らの発達障害や子育てについてXを中心に情報発信を行う。仕事でも、障害福祉分野でマネジメント担当をしながら、個人事業主として講師業やスタートアップのサポートに従事。なかでも、自身の経験を活かした発達障害の親子のケアに力を入れている。
[医療監修]
本田秀夫(ほんだ・ひでお)
医師・信州大学医学部教授
1988年東京大学医学部卒。医学博士。専門は発達精神医学。信州大学医学部子どものこころの発達医学教室 教授。信州大学医学部附属病院子どものこころ診療部 部長。長野県発達障がい情報・支援センター「といろ」センター長。









