台風の進路を解説する女性写真はイメージです Photo:PIXTA

「猛暑日」が珍しくなくなった今、「異常気象」と呼べる日はどこまで減ったのか。実は、同じ37.5度超の猛暑でも、100年前のデータなら「異常」、近年のデータなら「異常ではない」と判定されることがある。温暖化で気候そのものが変わるなか、私たちが当たり前だと思う「平年並み」も変わっている。異常気象をめぐる意外なカラクリを、気候科学の専門家が解説する。※本稿は、東京大学大気海洋研究所気候システム研究系准教授の今田由紀子『異常気象の科学 猛暑・豪雨・大雪のしくみと将来予測』(講談社)の一部を抜粋・編集したものです。

30年に1回以下で
発生するのが「異常気象」

 そもそも異常気象の定義はあるのでしょうか?気象庁では原則として「ある場所(地域)・ある時期(週、月、季節)において30年に1回以下で発生する現象」を異常気象と呼ぶ、としています。

 例えば、気象庁の地域気象観測システム「アメダス」が日本全国に整備されはじめてから約50年が経ちますが(2026年現在)、その観測データに基づくと、50年の間にある観測地点で1~2回しか起こっていないような極端な現象が異常気象ということになります。

 管区気象台や地方気象台などの気象庁の気象官署では、100年以上観測を続けているような地点もあります。

 例えば東京気象台は1875年(明治8年)に設立されていますので、約150年の観測データに基づくと、観測開始以降5回程度起こっている極端な現象が異常気象ということになります。

 しかし、この定義の仕方では、どの期間のデータを利用するかによって、異常気象に認定されるか否かが変わる可能性が出てきます。

 図1に示したのは、東京における8月の最高気温の時系列です。

図表1-7 東京における8月の最高気温の推移(気象庁データを元に作成)同書より転載 拡大画像表示

 1875年以降のデータが示されていますが、最初の100年(1875年から1974年)のデータを使った場合と最近の100年(1924年から2023年)のデータを使った場合とで、高温の発生確率がどのように見積もられるかを見てみたいと思います。

「平年」の定義によって
異常気象の基準も変わる

 例えば、8月の最高気温が37.5℃を超えた年が何回あったかを数えてみると、最初の100年間では3回、つまり、30年では0~1回程度ということになるので、前述の気象庁の定義に基づくと、「8月の最高気温が37.5℃を超えるイベント」というのは異常気象として認定されることになります。

 ところが、最近の100年間で同じようにカウントすると、37.5℃を超える回数は9回となっていて、30年間に換算すると2~3回発生していることになりますので、これは異常気象とは呼べなくなります。

 このように、長期的な気候変化によって平年値が一方向に変化していくような状況下では、「平年」をどの期間で定義するかによって、異常気象の基準も変化してしまうのです。

 そこで、世界気象機関(WMO)では、西暦年の1の位が1の年から連続する30年間について算出した累年平均値を平年値と定義した上で、これを10年に1回更新することを規則としています。

 2026年現在、平年値の定義は1991年から2020年となっています。この30年という幅に根拠はあるのか?と問われると、実はそのあたりは曖昧です。

 気象庁の気象観測統計指針によると、平年値の統計期間を30年と最初に定めたのは1935年で、その記念すべき第1回の平年値は1901年から1930年の平均値だったそうです。当時利用可能な観測データに限りがあったことから、それ以上延ばすことが難しかったようです。