「平年並み」の基準は
研究者の間でも意見が分かれる

 当時のやむにやまれぬ事情で30年という幅が使われた、という事情なのであれば、30年にとらわれる必要はもはやないのかもしれません。というのも、統計期間は長ければ長いほど、解析するデータのサンプルは多ければ多いほど、異常気象の発生確率の見積もりの精度が上がるからです。

 例えば、雨量のような変数は、気温に比べると、長期的な気候変化の影響を受けにくいことが知られており、そうであれば気候値(平均値)は30年よりも長く取った方がいいのではないか、という考え方もあります。

 一方で、背景の長期的な気候変化に強く影響を受ける気温については、近年の地球温暖化の本格化により、30年の間にも大きく気候が変化してしまう事態となっており、30年では長すぎるのでは?という議論もあります。

 ただし、単に幅を短くすればいいという単純な話ではなく、観測データのサンプル数が減ってしまうため、モデルシミュレーションなどの助けを借りる必要が出てきます。

 異常気象の基準となる平年値を、どのくらいの期間で定義するべきかは研究者の間でも意見がわかれるところです。

 すべての気象変数に対して最適な平年値の期間を決定することは難しいですが、異常気象に限っていうと、非常に重要なポイントが1つあると筆者は考えています。

 異常気象による被害が拡大する理由の1つとして、そこに住む人々がそのような自然現象に慣れていないこと、が挙げられます。2018年の西日本豪雨(平成30年7月豪雨)の際の瀬戸内地域や、関東と九州の台風への備えの違いも、慣れや備えの重要さを物語っています。

100年も観測データがないのに
なぜ「100年に1度」なのか

 このように、変わりゆく気候に順応するための人間の行動が、忘却曲線などを考慮した上で、何年程度前までの記憶に則っているのか、が認知科学や脳科学などの分野で証明できるとしたら、平年値の定義に対して強力な根拠を与えられるかもしれません。

 さて、ここまでに何度も「100年に3回」「30年に1回」というような表現が出てきましたが、この「◯年に1度」の◯年は「再現期間」と呼ばれる値で、その異常気象がどれくらい珍しいかを表す極端度合いの指標として用いられます。

 近年では、特別警報の基準となる「数十年に1度」や「50年に1度」という表現をニュースなどで耳にする機会も多いかと思います。現象によっては、100年も観測データがないのに、100年に1度という表現が使われることもあります。

 どのようにしてこの数値を見積もっているのでしょうか?この場合、限られたデータから、各値の発生頻度を表すヒストグラム(ある値を観測する回数を棒グラフにした分布図)を作成して、その裾野(極値)の形がどうなっているかを、適当な関数を当てはめて推定します。これ以上は複雑な極値統計論の話になってしまうのでここでは踏み込みません。

 ちなみに英語では、「異常気象」に相当するワードはあまり使われていません。あえて訳すとしたら「abnormal weather」でしょうか。その代わりに使われるのが、「extreme event」です。直訳すると「極端現象」となります。近年では、専門家の間で異常気象と呼ばずに極端現象と呼びましょう、という動きもありますが、本記事では、皆さんに馴染みのある「異常気象」という言葉を使いました。