リクルートワークス研究所の研究員・アナリストとして、高齢期の就労や賃金の動向を研究してきた坂本貴志さん。『月10万円稼いで豊かに暮らす 定年後の仕事図鑑』では、19の職種、100の仕事をデータとともに紹介している。100人超のシニア就業者へのヒアリングと統計データから見えてきた、「定年後を楽しく過ごせる人」の共通点とは。著者に話を聞いた。(構成/ダイヤモンド社書籍編集局)
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幸福度は「50代」が底
――定年後を楽しく過ごしている人には、共通点があるのでしょうか。
坂本貴志氏(以下、坂本):その前に、ひとつ押さえておきたいデータがあります。仕事の満足度も幸福度も、50歳前後を底にしたU字カーブを描くんです。
若い頃は高い収入や栄誉に仕事の価値を感じていた人が、50代でそこに意義を見いだせなくなる。ところが、そこから先は徐々に上がっていく。シニア世代になるほど幸福度が高い、というのがデータの示す実態です。
――意外です。定年後のほうが不安は多そうですが。
坂本:「高齢期には仕事に就けず貧困に陥ってしまうのではないか」と漠然とした不安にかられる人は多いのですが、実態を見ると、多くの人が無理なく仕事をしながら豊かな暮らしを実現しています。
「出世」から「貢献」へ、物差しが入れ替わる
――なぜ、歳を重ねるほど満足度が上がるのでしょう。
坂本:仕事に対する向き合い方そのものが、年齢に応じて変わるからです。
現役世代は、収入を高めること、高い役職に就くこと、大きな達成感を覚えること、高度な職業スキルを身につけることに重点を置く傾向があります。一方、高齢期の就業者は、身近な人の役に立つこと、社会に貢献すること、新しい体験をすること、体を動かすことに喜びを感じる人が増えていく。
つまり、測る物差しが変わるんです。物差しが変われば、同じ仕事でも点数が変わります。
――現役世代からは「やりがいを持てないのでは」と言われませんか。
坂本:講演でよく出る質問です。組織の中で大きな仕事をしてきた方ほど、そう聞かれます。ただ、それは現役世代の物差しで高齢期を採点しているだけなんですね。
共通点は「小さな仕事」
――では、楽しく過ごしている人の共通点は。
坂本:「自宅の近くで、無理のない小さな仕事を続けている」ことです。
小さな仕事とは、「報酬はそれほど高くはない」けれど、「労働時間が短く」かつ「仕事の負荷やストレスが少ない仕事」と私は定義しています。
ヒアリングをしていると、「自宅から10分のところで働いています」という声が本当に多い。自宅の目の前の小学校で交通指導員をしている、という方もいました。
通勤に体力を使わないので、仕事以外の時間がまるごと残りますよね。
その交通指導員の方は、朝7時から8時半と、下校時間の14時半から16時。1日計3時間の勤務です。間の6時間はフィットネスクラブに行き、卓球をし、買い物に出かけている。「最初は仕事の時間が空くのはどうかなと思っていたけれど、パズルのピースがピタリとハマった」とおっしゃっていました。
趣味も、地域とのつながりも「後から」ついてくる
――定年後は趣味を持て、地域活動に参加せよ、とよく言われます。
坂本:助言としては正しいのですが、順番が逆だと思っています。「歳を経た後に新しいことを始めるのは気が進まない」という方は、実際かなり多い。何もないところから趣味や地域活動を立ち上げるのは、思われているよりずっとハードルが高いんです。
ところが、小さな仕事を始めた人は、そこを自然と通り過ぎてしまう。仕事を通じて地域とのつながりが生まれ、適度に体と頭を使うので健康状態も保たれる。
――仕事が先で、つながりが後。
坂本:ええ。長く続けた仕事を失うことで生じる隙間は、結局、新しい仕事を通じて埋めるしかないのかもしれません。
62歳で地域の金融機関を退職した方は、市役所に嘱託で3年勤めたことで新たな人の縁と地縁ができ、今も毎朝、小学生と中学生の登校を見守るボランティアをしています。午前は9時半から11時半までドラッグストアのアルバイト。午後は借りている畑、地域活動、生涯学習講座、英語教室、そば打ち、弓道。夕方はトレーニングジム。「じっとしていると心も体も鈍ってしまいますから」と。
仕事から始まって、生活全体が回り出す。これが、定年後を楽しく過ごしている人にいちばん多く共通するパターンです。
リクルートワークス研究所研究員・アナリスト
1985年生まれ。一橋大学国際・公共政策大学院公共経済専攻修了。厚生労働省にて社会保障制度の企画立案業務などに従事した後、内閣府で官庁エコノミストとして「経済財政白書」の執筆などを担当。その後三菱総合研究所エコノミストを経て、現職。研究領域はマクロ経済分析、労働経済、財政・社会保障。近年は高齢期の就労、賃金の動向などの研究テーマに取り組んでいる。著書に『月10万円稼いで豊かに暮らす 定年後の仕事図鑑』のほか、『ほんとうの定年後「小さな仕事」が日本社会を救う』『ほんとうの日本経済 データが示す「これから起こること」』(共に、講談社現代新書)などがある。




