AI開発を手掛ける米新興企業アンソロピックCEOのダリオ・アモデイ氏 Photo:JIJI
日本の書籍が海外AIの学習に使われている――。そんな報道に「日本の知が奪われる」と憤る声もある。だが、古い書籍までAIが大量に読み込むことは、日本にとって本当に「損」だけなのだろうか。(百年コンサルティングチーフエコノミスト 鈴木貴博)
「古本」に殺到する
AI企業の“切実な事情”
日本人が書いた本が大量にAIに読まれているらしい。そのような疑念の報道が相次いでいます。
取次大手の日販はAI大手のアンソロピックに大量の書籍を販売していたようです。問題が表面化したのは今年7月に終結したアメリカの著作権訴訟の裁判資料で、アンソロピックがNippanという会社から書籍を購入した記録が詳細は黒塗りで開示されていたことです。
日販は「個別取引の有無を含めて回答を差し控える」「AI企業の学習向け用途と認識したうえで販売した事実はない」としています。その後の報道では日本の大手取次のグループ会社から米国向けに50トン超の書籍の輸出記録があったようで、冊数にすれば約10万冊の重さだといいます。
別のニュースとして9月22日には日本テレビが、ネット古書店に専門書中心の大量注文が発生していると報じています。
哲学、歴史、医学、法律、江戸文化、政治など専門書中心に古本が買われ、送り先は岡山県の同じ物流センターだったというのです。取材ではこれまで1000冊以上を売ったという古書店や、海外からのメールで数万冊を注文できるかという問い合わせがあった古書店が紹介されていました。
「このままだと日本人の知のすべてがAIに喰われてしまうのではないか」と憤る知識人も多いのですが、問題がふたつあります。必ずしも違法といえないことと、インターネット上のAIの学習データが枯渇しはじめていることです。
著作権の課題については、もうこんなことは10年以上前からわかっていたことなのに法整備が十分になされていないという問題があります。
日本の著作権法では専門家の間でも「AI学習は適法の可能性が高い」とされています。唯一歯止めになりそうな条文が「著作権者の利益を不当に害する場合」は対象外になるというものですが、これがAI学習を禁止していると拡大解釈できるかどうかは微妙です。
ただ著作権法とは別に、電子書籍に関しては利用規約でAI学習への利用が制限されています。先述したアメリカでの訴訟ではその制限からアンソロピックが海賊版サイトの書籍データを学習していたことが問題になり、一冊あたり3000ドル(約50万円弱)を支払うことで和解しました。
ここで問題の焦点が移ってきたのが合法的な学習のコストです。海賊版サイトから書籍データを取得すれば著作権侵害を問われるリスクがある一方、出版社などから大量のデータ利用許諾を得ようとすれば、交渉や費用が必要になり、AI開発企業の学習コストが跳ね上がってしまいます。
その抜け道になるのが紙の書籍の電子化です。アメリカの著作権法で、書籍を裁断して電子化すること自体はフェアユースとされています。そして日本の書籍の場合は、そのAI学習利用も現在の法律では規制できません。そこでAI企業が大量の書籍を購入している。これがひとつめの法律問題です。







