「寝ても休んでも疲れが取れない」「なんだかしんどい」「なかなか寝つけない」……。最近、メンタルの不調を訴える人が増えています。ADHD(注意欠如・多動症)で、うつサバイバーのバク@精神科医さんの最新刊『その考え、捨てちゃえば あなたの「思考のくせ」を変える40のヒント』(ダイヤモンド社)は、そうしたメンタル不調から抜け出すための「苦手な人との距離の取り方」や「気持ちをリセットするための方法」などを紹介する一冊。本連載では同書から抜粋・編集して、もっと楽に生きられるようになるためのヒント&解決策をお届けします。

毒親から身を守る3つのステップPhoto: Adobe Stock

親や家族との「絶縁」という選択肢
~家族こそ「OSが違う」と割り切る勇気を持とう

「絶縁」と聞くと、ドラマチックで恐ろしい響きと感じる人もいるかもしれません。

 親族会議を開いて、家族を全員の前で糾弾して、縁を切ると宣言して……そんなイメージでしょうか。

 でも、違います。現代の絶縁は、ほとんどが「ゆるふわ絶縁」で足ります。これは「攻撃」ではなく「避難」です。

 災害が起きたら、安全な場所に逃げますよね。それと同じ行為に過ぎません。

 あるいは、ウイルス感染の拡大を防ぐために、ネットワークから切断して機内モードにする行為だと思ってください。

 あなたが親と距離を取るのは、親を傷つけるためではありません。あなたが、あなたとして息をするためです。

 壊れかけた自分のシステムを復旧させるための、緊急メンテナンス。そのためには、一時的にでも電源を落とさなければならないことがあります。

「逃げてはいけない」という思い込みを、まず捨ててください。生物として、生存を脅かす天敵から逃げるのは、最も正しく、高度な生存戦略です。

 例え相手が血の繋がった親であっても、あなたの生存を脅かす存在なら、それは「天敵」。血の繋がりは、天敵判定を覆す理由にはなりません。

歪な家庭環境を当たり前に思っていた

 私自身の話を少しだけ書きます。

 私の父は若くしてがんになり、その現実からの逃避の末にアルコール依存症になりました(正直、病気の前から怪しかったのですが)。

 休日に家族で出かけた記憶はほとんどなく、高校生の頃に私が父をぶん投げる(物理的に)のに成功するまで、顔面めがけてコップが飛んでくるのが日常でした。

 母は外面(そとづら)が非常に良く、私は周囲から「お母さんに優しくしてあげなさい」と常に言われて育ちました。

 でも実際は、親の気分の浮き沈みで振り回される典型的なケースで―前述したように、私は長らくこれを「普通の家庭」だと思って生きていました。

 前述の通りわかりやすい家庭内暴力もなく、塾には行かせてもらえていたし、確かに制服以外の服はなかったけれど、冠婚葬祭は全て制服で行けるのだから問題はない。

 と、私は世間一般の「温かい家庭」とは程遠い環境を、数十年間、これがスタンダードだと思って生活していました。

 社会人になって親からお金をせびられるたびに、相手をしていた時期はかなり長かったのですが、それも「世間では普通のこと」だと思っていました。

 ただある時、「この関係性を維持するコストが、得られるもの(ほぼ世間体の幻想のみ)を遥かに上回っているんじゃないのか?」といろいろな人に言われた結果、ようやく、「これは違うのでは?」と気づける日が来たのです。

 そこから私は、脳内OSをゆっくりアップデートし始めました。

 具体的にやったことは、以下です。

 ・親と物理的・精神的な距離を取る
 ・父の遺産を放棄することで、母の今後の生活費を先にまとめて渡したことにする→それ以降は、金銭要求を拒否する地盤を作る

 こういうことを積み重ねた結果、「親の負の遺産」というサブスクリプションを、概ね解約できたと思っています。

 結果として、私のスマホ(人生)は、驚くほど軽く動くようになりました。

 イライラが激減し、「なぜわかってくれないんだ」と胸が詰まる瞬間も、ほぼなくなり、心の余裕のバッテリー持ちが劇的に改善しました。

毒親から身を守る
「心のファイアウォール」設定手順

 ここからは、実践的な「心のファイアウォール」の設定手順について書きます。

 いきなり毒親に「今日から絶縁します!」と宣言してはいけません。

 宣言すると、相手が逆上してDDoS攻撃のように鬼電や会社への突撃をしてきます。ジワジワいきましょう。

ステップ1:通知オフ(物理的距離)
 電話に毎回は出ない。LINEはブロックせず、数日あけて開封する。即レスを卒業して、返信頻度を徐々に下げる。実家への帰省も少しずつ減らす。「とにかく忙しい」という万能エラーメッセージを自動返信するのみです。

 本当の理由は、絶対に言わなくていいです。理由を言うと「じゃあ、いつなら?」とセキュリティホールを突かれます。

ステップ2:情報遮断(プライバシー設定)
 住所、仕事、収入、恋人の有無―これらは全て機密情報です。親だからといって開示する義務はありません。私自身、今の住所は親に正確には教えていません。

 仕事内容も伏せています。親は今でも私のことを「配偶者の収入にぶら下がっているバイト医師」だと思っています。それでいいんです。

 具体的な質問をされたら「まぁ、なんとかやってるよ」という中身ゼロのbot返信だけを繰り返してください。

ステップ3:親を「NPC」に格下げする
 親を「親」と思うから、期待して、失望します。親だからこうしてくれるはず、察してくれるはず―これは全部幻想です。

 親だって、あなたが生まれた瞬間に「親ボタン」が生えたわけじゃありません。一個人としての中身は、出産の前後で特別に大きな変化はないでしょう。ただの一人の大人が親になっただけです。

 あまりに話が通じないなら、親を「たまに遭遇する、話の通じないNPC(ノン・プレイヤー・キャラクター)」だと思ってください。ゲームで同じセリフしか言わない村人に、本気で怒る人はいませんよね。

 親が昔の常識を振りかざしてあなたを責めてきても、「ああ、またこのテキストが表示されているな」と、Aボタン連打で読み飛ばしましょう。

 もし今、親という激重アプリのせいで、他の楽しいアプリ(趣味・仕事・恋愛・休息)が開けなくなっている人がいるなら、迷わずタスクキルしてください。必要ならアンインストール(ゆるふわ絶縁)してください。

 とにかく、毒親からは逃げていいのです。距離を取っていい。

 あなたは、生きて幸せになる権利があります。そのために、ジワジワと、でも確実に、準備を進めていきましょう。逃げるというその権利を行使するのに、親の許可(認証)は必要ありません。

バク@精神科医
元内科の精神科専門医
中高生時代イジメにあうが親や学校からの理解はなく行く場所の確保を模索するうちにスクールカウンセラーの存在を知り、カウンセラーへの道を志し文系に進学。しかし「カウンセラーで食べていけるのはごく一部」という現実を知り一念発起し医師を目指し理転後、都内某私立大学医学部に入学。奨学金を得ながら勉学とバイトに勤しみ大学を卒業。医師国家試験に合格。当初、内科医を希望したが医師研修中に父親が亡くなった喪失体験も重なり休職に至る。この時医師になることを諦めかけるが先輩の精神科主治医と出会うことで精神科医として「第二の医師人生」をスタート。精神科単科病院にて様々な分野の精神科領域の治療に従事。アルコール依存症などの依存症患者への治療を通じて「人間の欲望」について示唆を得る。現在は双極性障害(躁うつ病)や統合失調症、パーソナリティ障害などの患者を対象とする開業医として診察にあたる。「よりわかりやすい、誤解のない精神科医療」の啓発を目標に、医療従事者、患者、企業対象の講演等を行う。うつ病を経験し、ADHD(注意欠如・多動症)をもつ医師としてX(@DrYumekuiBaku)でも人気急上昇中。Xフォロワー9.2万人。著書に『発達障害、うつサバイバーのバク@精神科医が明かす 生きづらいがラクになる ゆるメンタル練習帳』(ダイヤモンド社)、『依存メンタルを力に変えるレッスン』(大和書房)がある。