「寝ても休んでも疲れが取れない」「なんだかしんどい」「なかなか寝つけない」……。最近、メンタルの不調を訴える人が増えています。ADHD(注意欠如・多動症)で、うつサバイバーのバク@精神科医さんの最新刊『その考え、捨てちゃえば あなたの「思考のくせ」を変える40のヒント』(ダイヤモンド社)は、そうしたメンタル不調から抜け出すための「苦手な人との距離の取り方」や「気持ちをリセットするための方法」などを紹介する一冊。本連載では同書から抜粋・編集して、もっと楽に生きられるようになるためのヒント&解決策をお届けします。

親と距離を置こうと決意した時に感じる、罪悪感の正体とは?Photo: Adobe Stock

親は「あなたの管理者」じゃない

 親との関係に悩む人の多くは、無意識に親を「絶対的な管理者(Administrator:アドミニストレーター)」だと思い込んでいます。

 アドミニストレーターとは、システムの絶対管理者のこと。一般ユーザーには不可能な、システムファイルの書き換え、アプリの強制削除、権限の上書きなどができる、言わば絶対君主です。一般ユーザーに逆らう術はありません。

 この思い込みが残っている限り、親の言葉に逆らうと「システムエラー」のような罪悪感が発生します。

「親不孝なんじゃないか」
「罰が当たるんじゃないか」

 ―これらは全部、アドミニストレーター権限を勘違いしたOSが、誤作動で出しているエラーメッセージです。

 まず断言します。

 あなたの人生というスマホの管理者権限は、あなた自身にあります。親は、絶対君主ではありません。

「話せばわかるはず」という期待は
最大のバグ

 時代は令和になり、世間の常識というOSは、何度もアップデートされています。

「結婚して一人前」
「大企業に入れば安泰」
「女性は家庭に入るべき」

 こういう親のアドバイスは、もはやWindows 95時代の遺物です。当時は正しかったかもしれません。

 しかし2026年の今、このOSを動かそうとしても、現代のアプリとは互換性がありません。これは最新のスマホに、フロッピーディスクを無理やり挿(さ)し込もうとしている状態です。物理的にそもそも入るわけがないのに、「なぜ入らないんだ、お前が使えないからだ」と怒っている。

 こんな理不尽なことはありません。

「でも、親だから話せばわかってくれるはず」と思っていませんか?

 残念ながら、これは最も危険な期待です。

 OSのバージョンが違いすぎると、そもそも会話が成立しません。

 古いOSは、あなたの今の考え(新しいアプリ)を開く推奨環境すら満たしていないからです。サポート切れの端末に最新アプリをインストールしようとして、エラーで弾かれ続けているのと同じ状態です。

「話せばわかるはず」という期待こそが、あなたを苦しめ続ける最大のバグです。

 この期待を持ち続ける限り、親に何度も失望し、そのたびに傷が深くなります。

もし親が本当に「アドミニストレーター権限」を持っていたら?

 ここで一度、もし親が本当にアドミニストレーター権限を持っていたらどうなるか、考えてみましょう(あくまで比喩です。厳密なOSの権限管理とは違いますが、心理的な構造を理解するための例えです)。

①アンインストール権限(生殺与奪)
 どれだけ大切にしているアプリ(趣味、友人、恋人)でも、親の気分一つで削除される。反論は受け付けられない。

②タスクキル権限(強制終了)
 あなたが習い事で「これから頑張るぞ」と思っても、親が「NO」と言えば即中止。そこに反論する発想すら持ってはいけない。

③アクセス権限の剥奪
「このファイル(友人・恋人・趣味)にアクセスしてはいけない」と設定されたら、アプリ側はそのファイルを開けなくなります。しかも、それを「普通のこと」として受け入れることが常識に。

④プライバシー全閲覧
 日記、LINE、口座の中身―アドミニストレーターに対して秘密は存在しません。勝手に書き換えられることすらあり得るのです。

 どうですか?

 これが「親孝行」の理想形だと、誰が本気で言えるでしょうか?

 そんな支配関係、どう考えても異常です。

 でも、毒親家庭で育った人の多くが、これを「当たり前」と思って生きてきているのです。幼少期から刷り込まれたOSなので、疑うきっかけ自体がない。

 私も成人してからずっと、大学の友人や医師の後輩、義実家、配偶者から「あなたの受けてきたことは、精神的な虐待ですよ」と教えてもらうまで、自分の育ちが異常だとは気づいていませんでした。

 物は飛んできたが、暴力は幼稚園に入る前までしかなかったし。食事はあったから。

 毎日、夫婦喧嘩がうるさくて眠れないのは「自分が神経質だから」という、誤った判断基準でずっと生きてきたわけです。

親と距離を置こうと決意した時に感じる罪悪感は、
ウイルスにすぎない

「親不孝をしてしまうのでは?」
「世間から冷たい人間だと思われるのでは?」

 ―親と距離を置こうと決意した瞬間、こういう罪悪感が猛烈に襲ってきます。

 でもこれらは、長年の成育歴の中で、親がインストールした「罪悪感ウイルス」が、削除されまいとして発動する偽のセキュリティ警告です。

 PCで突然出てくる「ウイルスに感染しました! 今すぐ電話してください!」という詐欺広告と同じ構造だと思ってください。詐欺広告を見たら、あなたはどうしますか? 無視して、ブラウザを閉じますよね。これも全く同じなんです。無視して、閉じる。

「親を捨てるなんて」と批判してくる親戚や外野は、あなたのスマホのバッテリー残量など何も気にしていないし、倒れた時の責任も取ってくれません。

 SNSで好き勝手なことを言ってくる野次馬アカウントと、同レベルの存在です。

 即ブロック、が現代のネットリテラシーの常識ですよね。リアルも同じです。

 次の回では、毒親との具体的な距離の取り方、そして「絶縁」という選択肢について書いていきます。

バク@精神科医
元内科の精神科専門医
中高生時代イジメにあうが親や学校からの理解はなく行く場所の確保を模索するうちにスクールカウンセラーの存在を知り、カウンセラーへの道を志し文系に進学。しかし「カウンセラーで食べていけるのはごく一部」という現実を知り一念発起し医師を目指し理転後、都内某私立大学医学部に入学。奨学金を得ながら勉学とバイトに勤しみ大学を卒業。医師国家試験に合格。当初、内科医を希望したが医師研修中に父親が亡くなった喪失体験も重なり休職に至る。この時医師になることを諦めかけるが先輩の精神科主治医と出会うことで精神科医として「第二の医師人生」をスタート。精神科単科病院にて様々な分野の精神科領域の治療に従事。アルコール依存症などの依存症患者への治療を通じて「人間の欲望」について示唆を得る。現在は双極性障害(躁うつ病)や統合失調症、パーソナリティ障害などの患者を対象とする開業医として診察にあたる。「よりわかりやすい、誤解のない精神科医療」の啓発を目標に、医療従事者、患者、企業対象の講演等を行う。うつ病を経験し、ADHD(注意欠如・多動症)をもつ医師としてX(@DrYumekuiBaku)でも人気急上昇中。Xフォロワー9.2万人。著書に『発達障害、うつサバイバーのバク@精神科医が明かす 生きづらいがラクになる ゆるメンタル練習帳』(ダイヤモンド社)、『依存メンタルを力に変えるレッスン』(大和書房)がある。