ノーベル賞の登竜門・ラスカー賞受賞で話題! 睡眠学の世界的権威・柳沢正史教授が、最新研究をもとにやさしく解説した著書『世界最高の睡眠学が教える 睡眠の正解』が話題です。巷にあふれる睡眠の常識・思い込みの真偽を解き明かしつつ、「眠れない」「起きられない」「寝ても疲れがとれない」といった悩みの解消法を提唱します。あなたが本来の自分を取り戻し、よりよい明日を迎える睡眠のヒントをお届けします。(構成/ダイヤモンド社書籍編集局・中村直子)
Photo: Adobe Stock
寝だめをすることはできない
「明日は寝るのが遅くなりそうだから、今夜は早めに寝ておこう」「来週は寝不足になりそうだから、今週末にたっぷり寝ておこう」
そう考えている人は多いかもしれません。でも残念ながら、寝だめはできません。寝不足、つまり睡眠負債の“返済”はできても、あらかじめ“貯金”はできないのです。
睡眠には睡眠欲求という生理的な要求があり、これが積み重なると眠くなります。逆にいえば、その欲求が満たされた状態では、それ以上眠ることができません。満腹のときに、もう食べられないのと同じ理屈です。だから、寝だめは成立しません。将来の睡眠不足に備えて眠りを蓄えておくことは、生理的に不可能なのです。
寝だめと思っているのは、睡眠負債という借金の返済
寝だめできた気がするのはなぜか。あるいは、休日に長く眠れるのはなぜでしょうか。
それは、寝だめではなく、平日に積み上がった睡眠負債という借金の返済をしているにすぎません。休日に長く眠れるということは、見方を変えれば、それだけ平日の睡眠が足りていなかった証拠です。事実、好きなだけ眠ってよいという条件で行った実験でも、人は必要以上には寝られないことがわかっています。
秋田大学の三島和夫先生らによる有名な実験があります。被験者は「自分は毎日十分に眠れている」と自覚している20代の若者たちです。彼らのふだんの平均睡眠時間は約7時間22分でした。この若者たちを実験室に呼び、初日はふだんどおりに寝てもらったあと、翌日からの9日間は「もう起こさないから、いくらでも好きなだけ眠ってください」と指示しました。
すると、どうなったか。「好きなだけ寝ていい」と言われた1日目、彼らは平均して10時間35分も眠りました。2日目になると少し減り、3日目にはさらに減って、4日目あたりでようやく睡眠時間が一定に落ち着きました。この落ち着いた先の睡眠時間は、8時間25分ほどでした。
睡眠負債を完済したあとは、いくら「好きなだけ寝てください」と指示されても、若者たちは8時間20分以上眠れなくなりました。つまり、睡眠負債という借金を完済し、その人にとって必要な睡眠時間が完全に満たされた状態になると、人間はそれ以上眠ろうとしても眠れないのです。やはり、寝だめは不可能なのです。








