睡眠学の世界的権威・柳沢正史先生が、最新の研究をもとに「睡眠の正解」をわかりやすく解説。発売が待たれる、柳沢先生初の書き下ろし著書『世界最高の睡眠学が教える 睡眠の正解』から、「ちゃんと寝たはずなのに疲れがとれない」「もっと早く寝たいのに、つい夜更かししてしまう」といった身近な悩みや、巷にあふれる睡眠の常識・思い込みについて、一足先に紹介します。正しい睡眠を知り、本来の自分とよりよい明日を取り戻すためのヒントをお届けします。(構成/ダイヤモンド社書籍編集局・中村直子)

【世界最高の睡眠学】「ちゃんと寝たのに疲れがとれない」それ、あなたのせいではありません

正しい睡眠で本来の自分を取り戻そう! あなたの明日がもっと素敵になりますように

あなたは、ぐっすりと眠ることができていますか?
自信を持って「はい」と答えられる人は、この日本にいったいどれほどいるでしょうか。決して多くはないはずです。そして、この本を手に取ってくださったということは、あなた自身も、眠りにまつわる何らかの悩みを抱えているのだと思います。

実際、日本人の眠りには、はっきりとした問題があります。
厚生労働省の調査や国際比較を見ても、日本では睡眠に悩む人が多く、睡眠時間もきわめて短い。
客観的に見ても、日本は世界でもっとも眠れていない“寝不足大国”です。

夜なかなか眠れない、朝どうしても起きられない、昼間はいつも眠い、休みの日は長く寝てしまう、ちゃんと寝たはずなのに疲れがとれない、「もっと早く寝なきゃ」と思っているのになぜか夜更かししてしまう……。
こうした悩みを抱えると、人はまず解決策を探します。機能性表示食品やサプリメントを試す、スマートフォンに睡眠アプリを入れる、枕を変える、マットレスを替える……。

それでもうまくいかないと、最後には「自分が悪いのではないか」という考えに追い込まれてしまいます。自分の意志が弱いから、生活習慣がだらしないから、気合いが足りていないから……。そんなふうに自分を責めはじめてしまうのです。

正しく眠らないと損、脳は休まず働いている

申し遅れました。睡眠学者の柳沢正史です。
私はこれまで、25年以上にわたり、睡眠の謎を解き明かすための基礎研究を続けてきました。現在は、筑波大学の国際統合睡眠医科学研究機構(WPI-IIIS)の機構長として、多くの研究者たちとともに、日々睡眠に向き合っています。

睡眠の研究を長年続けてきた私から、最初にお伝えしたいことがあります。
あなたの睡眠の悩みは、あなたのせいではありません。
今の日本社会のあり方そのものが、あなたを眠れなくさせているのです。

研究者として多くのデータや研究知見に触れるなかで、くり返し感じてきたことがあります。それは、睡眠の問題を“自己責任”で片づけるのは、あまりにも乱暴だということです。
日本では「寝る間を惜しんでがんばる」ことが、どこか美徳のように扱われてきました。睡眠は削るもの、余った時間で取るもの、仕事や勉強や家事育児を全部こなしたあとに、最後に残った時間でなんとか帳尻を合わせるもの。

そんな感覚が、いまだに日本社会全体に深く染みついています。
そう、この社会が、あまりにも“眠れないように”できているのです。
けれど、本来、睡眠はそんな扱いをしていいものではありません。睡眠は、人間の心身の健康を支えるものです。眠っているあいだ、脳は休んでいるどころか、記憶を整理し、感情を整え、免疫を支え、体を修復しています。にもかかわらず、多くの人が睡眠を過小評価してきました。

睡眠不足の根深さを知る

日本人の睡眠に関するひずみは、子どものころからすでに始まっています。
小学校の高学年あたりから寝不足が始まり、中高生になるとさらに深刻になります。通学に時間がかかる、授業が終わっても塾がある、受験が近づけば夜遅くまで勉強するのが当たり前になる……。
真面目な子ほど、がんばる子ほど、睡眠時間が削られていく。これはもう、本人の努力不足どころか、物理的に時間が足りないのです。そんな環境で、「もっと早く寝なさい」と言うのはあまりに酷でしょう。

そして、寝不足に慣れた子どもたちはそのまま大人になります。つねに寝不足なので「昼間眠いのが当たり前」という感覚も身についてしまう。さらに、社会人になってからも、長く働くことが評価されやすく、仕事の成果より、会社にいる時間の長さが重視されがちになる。育児や介護をしながら働く人は、さらに厳しい状況に置かれます。とくに日本では、育児や介護の負担が一部の人(とくに女性)にかたよりやすく、睡眠を削ることがなかば当然のように受け入れられてきました。

つまり、日本の睡眠不足は、単なる生活習慣の問題ではありません。
社会の設計の問題です。文化の問題です。働き方の問題であり、教育の問題であり、家庭の問題でもあります。
そうしたものが折り重なって生まれた、とても根深い問題なのです。

科学的に正しい睡眠との付き合い方

もちろん、社会のせいだからといって、仕方ないと終わらせるつもりもありません。
この連載でお伝えしたいのは、長年、睡眠を研究してきたからこそわかる、科学的に見て正しい睡眠との付き合い方です。「睡眠は量より質」「週末の寝だめで睡眠負債を取り返せ」「パジャマだけで快眠をサポート」。世の中には睡眠にまつわる情報があふれていますが、そのなかには正しくないものも少なくありません。

本連載では、そうした思い込みを1つずつ整理しながら、睡眠時間をどう確保するか、日中をどう過ごすか、寝室環境をどう整えるか、眠れない夜にどう対処するかなど、睡眠を守るための現実的な方法をお伝えしていきます。全部を一度に変える必要はありません。忙しい毎日のなかで、できることを1つでも取り入れてみる。昨日より少しだけ眠りやすくなる。その積み重ねが、あなたの睡眠を確実に変えていきます。

よりよい眠りを取り戻していくうえで、もう1つ大切なことがあります。
それは、自分を責めるところから始めないこと。必要なのは、根性論ではなく正しい知識です。気合いではなく、正しい理解が欠かせません。
睡眠は、人生の土台です。仕事のパフォーマンスも、心の安定も、健康も、美容も、すべてその影響から逃れることはできません。

睡眠を軽く見ることは、自分という世界に1台しかない最高級の車を、ろくにメンテナンスもせず、無理やり走らせつづけることと同じです。どんなに性能のよいエンジンを積んでいても、整備を怠れば、いつかどこかで致命的な故障を招いてしまいます。
正しい睡眠を理解することで、あなた本来の眠りを取り戻し、あなたの明日が素敵なものになるように。そのための睡眠学を、ここから一緒に始めていきましょう。