戦略的なマーケティングとブランディングによって高級な価値を確立したビジネスモデルは、市場に大きな利益をもたらしている。一方で高い品質を誇りながらも「良いものを安く提供する」という価値観に縛られ、適切なブランディングが行えていない多くの日本のプロダクトは、そのポテンシャルを十分に活かしきれていない。シャンパン事業で大きな成功を収めた本村哲也氏は著書『アメリカに訴えられた男 エリート外資系銀行員が嵌められた罠。そして奈落からの復活』(ダイヤモンド社)で、正当な対価を得て市場を豊かに循環させる新たなビジネスのあり方を提示している。
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シャンパン事業に見るブランディングの意味
シャンパンの事業を調べてみると、かなり有望なマーケットだということがわかる。シャンパーニュのマーケットは400年近く拡大し続けている。値段も右肩上がりだ。「シャンパーニュ」というブランドビジネスは、フランスが誇る極めて魅力的なビジネスモデルなのだ。
「わかりやすい例をあげましょう。巷で販売されているスパークリングワインだと3000円なのに、シャンパーニュというブランドが冠されると1万円で売られているわけです。これがブランドの魔法です。『シャンパーニュは高級』というブランディングをメーカーやシャンパーニュ委員会は何百年もかけてやってきているのです。結婚式にはシャンパーニュ、お祝いにはシャンパーニュ、シャンパーニュは高級だとひたすらPRしてきた賜物(たまもの)なのです。そのブランドをフランスは国を挙げて守っている。だから自分でビジネスをやるにしてもすごくやりやすいと思ったのです。ワインのビジネスとシャンパーニュのビジネスはまったく違います。ワインは農業商品であるのに対して、シャンパーニュは工業商品であると言えるでしょう。なぜか? シャンパーニュだけは法律で特別にワインをブレンドすることが許されているからです。シャンパーニュ地域はもともと冷涼でぶどうを作るのに適していない地域だったからこそ、ブレンドやドザージュ(補糖)が特別に許され、市場に商品を大量に安定供給できるようになったのです。大量生産でも味を安定させられるようになったからこそ、多大な広告宣伝費を長期間投入し続けることが可能になったわけです。シャンパーニュとワインの流通量が格段に違うのもここに理由があります。しかしワインビジネスに関わっている人でさえ、このようなマーケットの特性の違いをきちんと理解している人は少数派なのです」(本村哲也)
「シャンパンはダイヤモンドと同じビジネス構造なんですよ、と伝えてもすぐに理解してもらえないことが多いですね。ダイヤモンド事業は19世紀に南アフリカで大規模な鉱山が発見された際に、デ・ビアス社が自社のダイヤモンドの価格下落を恐れ、世界の9割の鉱山を買い占めたことに始まります。デ・ビアス社が結婚記念日にはダイヤモンドを贈ろうとPRし続けたことで、高級品としての地位を確立したのです。そこから100年以上にわたってダイヤモンドは憧れの高級品であり続けています。両ビジネスはマーケティングによって創られたブランドビジネスの最たるものなのです」
世界ではブランドビジネスが極めて大きな経済圏を形成するに至っている。欧米の企業は、世界中の人たちにルイ・ヴィトンがいい、メルセデス・ベンツがいい、ロレックスがいいということを数百年かけてPRしてきた。今や欧州最大の時価総額の会社は石油メジャーではなくなり、高級ブランドを扱うLVMH社である。LVMHの会長兼CEOのベルナール・アルノー氏こそが世界1、2を争う大富豪になっている時代なのである。
日本の製品は良いと世界の人はみんな思っていたが、日本政府や企業はそのポテンシャルをうまく活かせていないように思われる。たとえば和食は世界でも唯一無二のポジションであるにもかかわらず、どうブランディングしていくべきかのグランドデザインがなかった。ミシュランによるレストラン格付けによって初めて世界に認知されたが、我々日本人こそが改めて和食の価値を再認識したのではないか。
日本酒にしても、ワインやウイスキーよりもはるかに歴史が長く、作るのも管理するのも明らかに難しい。良い日本酒を作る技術があれば、ウイスキーを作るのもワインを作るのもジンを作るのもそれほど難しいことではないはずだ。
焼酎もそうだ。日本の焼酎はクオリティが高くて美味しいのに、極めて安く売られてしまっている。日本が誇るプロダクトを安く売ってしまっているということを理解できていないから、負のループにつながっているのだ。日本製品はきちんとしたブランディングができていなかったから、いいものでも高く売れなかった。
「いいものを安く大量に提供することがいい」という価値観自体が産業革命時代に生まれた考え方であり、現在の日本が目指すべき世界とは明らかにミスマッチな価値観なのである。ここ十数年のジャパニーズウイスキーやジャパニーズワインの世界的人気化・ブランド化を好機と捉えて、より多くの日本の商品の価値を適切に伝えていければ、きちんとした対価で販売でき、適切な利潤がその市場をさらに豊かにしてくれるはずだ。







