1枚の絵から、あなたはどんな景色や音を感じ取りますか? 『「いまを生きる力」を取り戻す 感性の教室』著者・末永幸歩氏とお届けする今回のテーマは、レンブラントの《笑う男》。「本当に笑っているのだろうか?」というシンプルな疑問からスタートする対話の中で、暗闇の絵画の中に豊かな物語が立ち現れていきます。自分の感性を解き放つ、アートの深遠な魅力をご体感ください。(聞き手/ダイヤモンド社・森遥香)

笑う男©︎Mauritshuis, The Hague

第一印象は「戦場の残酷な不気味さ」

森遥香(以下、森):今回は、レンブラントの傑作《笑う男》を鑑賞していきます。フェルメールの少女と同じく、こちらも特定の人物をそっくりそのまま描く肖像画ではなく実験的な「トローニー」とされる作品でしたよね。

末永幸歩(以下、末永):はい。それではさっそく「アウトプット鑑賞」をしてみましょうか。この絵を見て、率直にどんな印象を受けましたか?

森:正直に言うと……ちょっと怖くて不気味です! 目が半開きで白目が濁っていて、上の歯が見えず下の歯だけ見えています。首元には甲冑のような金属の襟巻きをしていて、右側が暗闇に溶け込んでいます。

末永:確かに、《笑う男》といっても、親しみやすい笑顔というよりは、どこか見下されているような威圧感がありますね。

森:はい。「あざ笑われている」ような感覚です。なんだか戦場で相手を略奪したり虐殺した後に、残虐な高笑いを浮かべている将軍や軍人のように見えてきて、ゾクッとします。

「本当に笑っているのか?」という問いが世界を変える

末永:ここで、アウトプット鑑賞の醍醐味である「本当に、そうかなあ?」という問いを投入し、ものの見方を変換してみましょう。まず、この人は「本当に笑っている」のでしょうか?

《笑う男》というタイトルを一旦頭から消して、この表情だけを観察してみます。

森:あごを上げて上を見上げ、口を「あ」の形に開けている。笑っているのではなく、何か予想外の出来事に「あっ!」と驚いている顔にも見えてきます。

末永:本当ですね!題名に引きずられて「笑い」だと思い込んでいましたが、口の開き方と視線に注目すると「驚きの表情」にも見えてきますね。

森:さらに、身体の構えを見てみると、顔は「あっ」と大きく動いているのに、肩から下はまっすぐ直立していて動いていません。顔がこれだけ表情豊かなのに、首から下が動いていない。

末永:直立不動であごを上げ、口を大きく開けている……。なんだか、オペラやミュージカルの舞台で、スポットライトを浴びて朗々と歌を歌っている歌手の姿のようにも見えてきますね。

森:面白いです! 「戦場の残酷なあざ笑い」から、「オペラ劇場で朗らかな歌声を響かせる歌手」へと、景色が180度転換した気がします。耳を澄ますと、戦場の爆音ではなく、オーケストラの美しい演奏と彼のびやかな歌声、そして観客の万雷の拍手が聞こえてきます。

末永:「本当にそうかな?」という問いで、鑑賞の前提を疑ってみることで、作品の見え方や、感じられ方の幅が広がっていきます。一枚の作品から「自分だけの答え」を生み出すアウトプット鑑賞の面白さが少し実感されたのではないでしょうか。