クジャクといえば、大きく広がる色鮮やかな羽が印象的だ。しかし、あれほど目立つ羽は、天敵から身を守るうえでは不利に思える。動きにくくなるうえに、遠くからでも見つかりやすくなってしまうからだ。それなのに、なぜクジャクはあのような羽を持っているのだろうか。実は、その背景には進化生物学で知られる、ある興味深い仕組みがある。しかも、その仕組みは人間が高級品を身につけたり、自分の努力や能力を周囲にアピールしたりする行動にも通じているという。そんな仕組みを『すべて本能のせい』から解説する。(ダイヤモンド社書籍編集局)

クジャクが羽を広げている様子Photo: Adobe Stock

なぜクジャクは、わざわざ目立つ羽を持っているのか?

動物が生き残るためには、天敵から逃げたり、身を隠したりすることが重要だ。
そのためには、できるだけ目立たず、素早く動ける身体のほうが有利なように思える。

ところが、クジャクのオスは、その正反対ともいえる特徴を持っている。
大きく、鮮やかで、ひときわ目立つ羽だ。

あれほど大きな羽を持っていれば、動きにくくなるうえ、天敵にも発見されやすくなるだろう。

生き残ることだけを考えるなら、むしろ邪魔になりそうな特徴である。

では、なぜクジャクは、わざわざ生存に不利とも思える羽を持っているのだろうか。

実は、こうした一見不合理な特徴を説明する考え方の一つに、進化生物学の「コストシグナル」がある。

この仕組みを知ると、クジャクの羽だけでなく、私たち人間が日常的に取っている行動にも、意外な共通点が見えてくる。

「不利な条件」が、かえって能力の証明になる

『すべて本能のせい』ではその仕組みの背景を下記のように解説しています。

「自分のすごさを見せつけてしまう」仕組みの背景には、進化生物学で言われる「コストシグナル」という面白い概念があります。
これは、人間に限らず、多くの生物に見られる現象です。
動物は、自分の能力や持っているものの豊かさを周りに伝えるために、あえて「コスト(負担)の高い行動」をわざわざ取ることが知られています。
ここで重要なのは、その「コストの高さ、大変さ」そのものが、信頼性の担保になるという点です。
誰でも簡単に真似できない行動ほど「この生き物は本当にそれを行える力がある」という証明になります。
このコストシグナルの代表的な考え方が、生物学者アモツ・ザハヴィが提唱した「ハンディキャップ理論」です。
たとえば、クジャクのオスの大きく鮮やかな羽は、生き残るという目的から見れば明らかに不利だと思いませんか?
この派手な羽は重くて動きにくく、しかも天敵に見つかりやすくなる特徴です。
しかし、その「大きなハンディキャップを背負いながら生きのびている」という事実そのものが、「自分はこれほど不利な条件であっても生き残れるほど、身体能力や生存能力がズバ抜けて優れている」というシグナルになるのです。

また、人間が持つ仕組みについても説明されています。

人間社会における高級な贅沢品の消費や、多大な時間の投入、努力の猛烈なアピールも、これらとよく似た仕組みです。
これほどのお金や時間を投じられるという余裕を見せつけることで、自分の経済的な豊かさ、能力、信頼性といった目に見えない資質を、周りに効果的に伝えているのです。
このような見せつける行動がうまくいくと、私たちの脳内では他人からの評価や承認を「報酬」として受け取ります。
さらに、他人との違いがはっきりしていればいるほど、見せつける効果が高まったと脳は判断し、そのアピール行動をさらに繰り返すようになるのです。

人間が「わざわざお金や時間をかける」のも同じ理由?

コストシグナルの興味深いところは、単に自分の能力をアピールするのではなく、そのためにどれだけ大きな負担を引き受けているかが、重要な意味を持つという点だ。

誰でも簡単に真似できることでは、特別な能力や豊かさを周囲に伝えるのは難しい。

一方、多くのお金や時間、労力を必要とする行動なら、それを実行できるという事実自体が、能力や余裕を示す材料になる。

たとえば、高価なブランド品を身につけること。
あるいは、仕事でどれほど努力しているかを周囲に伝えること。

こうした行動には、単に物を手に入れたり、経験を共有したりするだけでなく、自分の能力や豊かさを示すという側面もある。

つまり、人間にとっても、「これだけの負担を引き受けられる」という事実が、自分の価値を周囲に伝える手段になりうるのだ。

もちろん、高級品を買う人や努力を語る人が、必ずしも他人に見せつけようとしているわけではない。
純粋に好きなものを選んだり、頑張った経験を誰かと共有したりする場合もあるだろう。

ただ、人間の行動には、自分でも気づかないうちに、周囲に自分の能力や価値を伝えようとする側面が含まれていることがある。

「すごいと思われたい」が繰り返される仕組み

さらに、こうしたアピール行動は、周囲から評価されたり、認められたりすることで繰り返されやすくなる。

自分の実績を話したときに褒められた。
高価なものを身につけていたら、周囲から注目された。

そんな経験が脳にとっての報酬になると、また同じような行動を取りたくなることがある。

そして、他人との違いがはっきりしているほど、自分の能力や豊かさを効果的に示せたと感じやすくなるという。

こうして考えると、クジャクの派手な羽と、人間が自分のすごさをアピールする行動には、興味深い共通点がある。
それは、一見すると無駄や負担に思えることが、周囲に自分の能力を伝えるうえでは意味を持つ場合があるということだ。

クジャクの羽は、単に目立つためだけのものではない。
そして人間が何かを見せつけようとするときにも、そこには自分の価値を周囲に伝えようとする、生物としての仕組みが関係しているのかもしれない。