ADHD当事者のなちゅ。さんが、試行錯誤の末にたどり着いた「生きるコツ」を詰め込んだ『ADHDの母が伝えたい 生きづらい女の子が覚えておきたいこと』。同書に深く共感したという「精神科医さわ」氏(『「発達ユニークな子」が思っていること』著者)は、日々の診療で多くの子どもや親と向き合うかたわら、自身も発達特性のある娘たちを育ててきた。発達障害は「個性」なのか、それとも「障害」なのか――多くの議論を呼ぶこの問いに、専門家として、そして当事者の親として、どう向き合っているのかをさわ氏に聞いた。(構成/藤田美菜子、ダイヤモンド社書籍編集局)

【精神科医が解説】発達障害は「個性」なのか? 精神科医の答えとはPhoto: Adobe Stock

「発達障害」イコール「障害」ではない

――前回、「あなたは発達障害です」と告知したとき、安心する人もいれば傷つく人もいるというお話がありました。傷つくのはどんな人なのでしょう? そうした特性に対して、もともとネガティブなイメージを持っている場合でしょうか?

精神科医さわ(以下、さわ) まさにそうだと思います。そこには、「発達“障害”」という言葉が独り歩きしてしまっていることの弊害もあると思います。

ASDやADHD、発達障害と診断されたからといって、全員が障害認定を受ける程度というわけでは決してありません。いまは正確には「発達障害」という言葉をやめて、「神経発達症」と呼びましょうという流れになっています。

私たち専門家の捉え方としては、発達障害イコール障害者では決してない。特性によって自立した生活が難しい場合に、障害者手帳の申請を考えましょうか、という話になるだけです。その点が、世の中にはなかなか広まっていないのではないかと感じます。

「発達ユニーク」という言葉に込めた思い

――さわ先生ご自身は、発達障害という言葉の代わりに「発達ユニーク」という言葉を使われていますね。

さわ 私の思いとしては、全人類の発達はユニークなものなんです。発達障害かどうかにとらわれる必要はありません。同じ日に生まれた子どもが同じ日にしゃべり出すことは絶対にないし、同じ日に歩き出すことも絶対にない。発達のスピードも凸凹も含めて、まったく同じ人間は誰一人いないわけです。私はそれこそが人間らしさであり、人生の面白さだと捉えています。

「発達ユニーク」という言葉を使うようになったのは、自己紹介で家族のことを話す場面で、「上の子がASDで、下の子がADHDとLDで……」みたいな話になりがちだから。周りが精神科医ばかりならそれでもいいのですが、相手によっては発達障害について全然知識がないかもしれないし、そもそもそこまでの情報を求められていない場面もありますよね。なちゅ。さんの本にも「ADHDはなんでも全面開示したがるけど、初対面ではためらったほうがいい」というアドバイスが書かれていましたが、本当にそれです。

そこで、うちの子たちを説明するのに「めちゃくちゃ発達ユニークな子たちなんですよね」と言ってみたんです。「想像していなかったこともいろいろ起こるんですけど、すごく気づきを与えてもらったし、それを楽しんでいる」という感じで。本当にふと降りてきた言葉なんですが、それをきっかけに、これはいいなと思って、「発達ユニーク」と言うようになりました。

簡単に「個性」で済ませていい話ではないけれど…

――「発達ユニーク」という言葉を取り入れれば、本人も親も受け止め方が変わるでしょうか?

さわ それは難しいところです。「ユニークなんて言葉で片付けられたら困る」という意見もありますし、「個性」という言葉の使い方もすごく難しい。

SNSで「発達障害は個性だ」という話をすると、すぐに賛否が巻き起こります。「個性だ」という言い方に傷つく人がいることも深く理解しています。障害の程度が重く、福祉サービスを使わなければならない方や、子どもの障害が重くて仕事を辞め、毎日付き添わなければならないお母さんからすれば、「個性なんかで済ませてくれるな」と怒りが湧くんですよね。

でも、発達障害は個性だと思っていないかと言われたら、やっぱり私は「個性の一つだよね」とも思っているんです。

「発達障害は天才だ」という意見もよく出ますよね。私が「うちの子たちは発達障害で」と話すと、ママ友が「天才な子もいたりするよね」と言ってくれたりする。それは「そう捉えたらいいじゃん」という優しさで言ってくれていることが多いと感じます。だから「ありがとね」と受け止めています。

もちろん専門家としては、受け取り手がそれまでにその言葉をどう捉えてきたかを知らずに、安易に言葉を発することはできません。私も公の場では、発達障害は個性だとも、個性じゃないとも言わないようにしています。

でも、個性だと捉えられるのであれば、それは素敵なことだと思っているのです。

精神科医さわ
児童精神科医、精神保健指定医、精神科専門医、公認心理師、医療法人霜月之会理事長
精神科の勤務医として、アルコール依存症をはじめ多くの患者と向き合う。シングルマザーとして2人の発達ユニークな娘を育てている。長女が不登校となり、発達障害と診断されたことで「自分と同じような子どもの発達特性や不登校に悩む親御さんの支えになりたい」と勤務していた精神病院を辞め、名古屋市に「塩釜口こころクリニック」を開業。老若男女、さまざまな年代の患者さんが訪れる。これまで延べ5万人以上の診察に携わっている。