ADHD(注意欠如多動症)の当事者で、ASD(自閉スペクトラム症)とADHDの2人の娘さんをもつなちゅ。さん。新刊『ADHDの母が伝えたい 生きづらい女の子が覚えておきたいこと』では、子どもから大人まで一生使える具体的な対応策を伝えている。今回のテーマは、職場の人間関係。「やたら優しい人」に、なぜ警戒が必要なのか。著者に話を聞いた。(構成/ダイヤモンド社書籍編集局、イラスト/武者小路晶子)

やたら優しい人、褒めてくる人に注意
――本の中で、「やたら優しい」「やたら褒めてくる」人には注意、と書かれています。優しくされているのに、警戒が必要なのでしょうか。
なちゅ。:私もそうですが、ADHD傾向がある人には、2つの特性があります。
ひとつは「利他」です。私たちは「誰かのため」だと通常の能力以上の力が出る、利他的動機づけで動く生き物です。もうひとつは「全開示」。聞かれてもいないのに、自分の情報を全部出してしまう。
つまり、燃料を注げば注いだだけ働くエンジンを積んで、その仕様書を全公開して歩いてしまっているんですね。
善意の人に囲まれていれば、これは愛される性質です。ただ、扱いやすさという点で見れば、こんなにわかりやすい相手もいません。だから、狙われやすいんです。
「ノー」を言った瞬間の反応を見る
――具体的には、どう見分ければいいのでしょう。
なちゅ。:仕事で「頼まれると断れない」「役に立てると安心する」と感じているなら、自分の献身が特定のひとりに吸われていないか、確認してみてほしいです。
最初から距離を詰めて助けてくれる人、やたら持ち上げてくる人を、すぐに信用しきらない。私はこれを「検問」と呼んでいて、そういう人に会ったら、自分に対して次の3つの質問をします。
◎私は本当に大事にされているか?(言葉ではなく扱いで見る)
◎手柄は、ちゃんと私のものになっているか?
◎断ったとき、相手はどんな反応をするか?
――3つめはすぐ実践できますね。
なちゅ。:一番のテストは、小さく断ってみることですね。「ノー」を言った途端にキレる、不機嫌になる、罪悪感を植えつけようとしてくる。そういう相手は警戒するようにしています。
悪意のない人のほうが、ずっと気づきにくい
――要注意人物の見分け方、ということですね。
なちゅ。:いえ、実は「悪い人に気をつけよう」という話にはしたくないんです。実際には、悪意を持って近づいてくる人より、悪意のない相手のほうがずっと多いので。
向こうは、あなたを仕事で搾取しようと思っていません。ただ、頼むと動いてくれるから、頼む。褒めると張り切ってくれるから、褒める。「あなたしかいない」と言うと全力で応えてくれるから、言う。それだけなんです。
注ぐと動くから、注ぐ。こちらも、必要とされてうれしいから、走る。悪意のない依頼と、悪意のない献身が、最高の燃費で噛み合ってしまう。誰も悪くないまま、搾取と同じ形が出来上がるんです。
――悪意がないぶん、気づきにくそうです。
なちゅ。:これが一番気づきにくいですね。相手に悪意があれば、いつかボロが出ます。キレる、見下す、手のひらを返す。サインが出るから、気づける。
でも悪意のない相手は、本心から感謝して、本心から「助かってる」と言ってくる。嘘がどこにもないので、検知のしようがない。私たちの体感は「すごくよくしてもらっている」「この人とは相性がいい」のままなんです。
居心地がいいときこそ、検問の出番
――では、何を手がかりにすればいいのでしょう。
なちゅ。:感情ではなく、事実で答え合わせをすることです。居心地がいいときこそ、検問の出番だと思っています。
誰が注いだ燃料で、誰の目的地に向かって走っているのか。時々メーターを見てほしいんです。エンジンの持ち主が自分であることと、給油の主導権が自分にあることは、別の話ですから。
なちゅ。
1980年生まれのワーキングマザー。発達障害(ADHD:注意欠如多動症)当事者。中学生と高校生の娘、そして夫も発達障害の特性を強く持つ。長女の発達障害診断をきっかけに、発達障害やそれに関連する分野の独学を開始。以来15年以上、自らの発達障害や子育てについてXを中心に情報発信を行う。仕事でも、障害福祉分野でマネジメント担当をしながら、個人事業主として講師業やスタートアップのサポートに従事。なかでも、自身の経験を活かした発達障害の親子のケアに力を入れている。
[医療監修]
本田秀夫(ほんだ ひでお)
医師・信州大学医学部教授
1988年東京大学医学部卒。医学博士。専門は発達精神医学。信州大学医学部子どものこころの発達医学教室 教授。信州大学医学部附属病院子どものこころ診療部 部長。長野県発達障がい情報・支援センター「といろ」センター長。








