「部下には誰に対しても公平に接するべきだ」。そう信じている管理職は多いのではないでしょうか。しかし、全員に同じ指示を出し、同じように励ますことが、必ずしも最善なマネジメントとは限りません。外資系企業と日本企業で人事責任者を務め『冷えた組織を熱くする リーダーの切り札』を上梓した南和気氏が、優秀なリーダーが実践する「接し方の使い分け」を解説します。(構成/ダイヤモンド社書籍編集局)

リーダーの切り札部下Photo: Adobe Stock

「全員に同じように接する」が、なぜダメなのか?

「部下によって態度を変えるのはよくない」

 そう考えている管理職は多いのではないでしょうか。

 特定の部下だけをひいきすることなく、全員に同じように指示を出し、同じように励まし、同じ基準で接する。

 一見すると、理想的な上司の姿です。

 ところが、こんな経験はありませんか。

 ある若手社員には、仕事の進め方を細かく教えたことで、目に見えて成果が上がった。

 そこで、同じやり方で中堅のエース社員にもアドバイスしたところ、なぜか不機嫌になり、以前ほど積極的に提案してこなくなった。

「良かれと思って教えたのに、なぜ?」

 実は、ここにマネジメントの大きな落とし穴があります。

 ある部下に効果的だった指導が、別の部下には逆効果になることがあるのです。

部下全員に「同じ薬」を処方していないか?

 例えば、新人社員が初めて提案書を作る場面を考えてみましょう。

 経験も知識も足りない段階で「自由にやってみて」と言われても、何から手をつければいいのかわかりません。

 この場合は、上司が具体的な手順や判断基準を示し、丁寧に指導することが必要です。

 一方、十分な経験を積み、顧客のことを熟知しているエース社員にはどうでしょうか。

 上司が「ここはこう書いて」「メールを送る前に必ず見せて」と細かく指示すれば、本人は「自分は信頼されていない」と感じるかもしれません。

 その結果、自分で考えることをやめ、上司の指示を待つようになってしまうこともあります。

 これは、医療に例えるとわかりやすいでしょう。

 風邪をひいた人と骨折した人に、まったく同じ薬を処方する医師はいません。

 ところがマネジメントでは、部下の状態を十分に見極めないまま、全員に同じ指導をしてしまうことがあるのです。

優秀なリーダーは「4つの顔」を使い分ける

 そこで役立つのが、ポール・ハーシーとケネス・ブランチャードが提唱した「SL理論(状況対応型リーダーシップ)」です。

 この理論では、部下の「業務の習熟度」と「意欲・自信の状態」に応じて、上司の接し方を変えます。

 具体的には、次の4つのスタイルを使い分けます。

①指示型:経験が浅く、意欲が高い部下

 仕事の進め方やルールを具体的に教えます。放任するのではなく、まずは成功できる道筋を示すことが重要です。

②コーチ型:一定のスキルはあるが、意欲が不安定な部下

 一方的に指示するのではなく、本人の目標や仕事の意味を共有しながら伴走します。

③援助型:能力は高いが、自信や意欲が揺らいでいる部下

 細かい指示は控え、本人の考えを引き出します。判断を尊重しつつ、必要なときには支援します。

④委任型:能力も意欲も安定している部下

 権限と責任を委譲し、自分で判断する機会を与えます。上司が過度に介入しないことが成長につながります。

 大切なのは、どのスタイルが一番優れているか、ではありません。

 目の前の部下に、今どのスタイルが必要なのかを見極めることです。

本当の「公平さ」とは、全員を同じように扱うことではない

 ここで誤解してほしくないのは、「相手によって態度を変える」といっても、好き嫌いで対応を変えるわけではないということです。

 人としての敬意や評価の公正さは、誰に対しても変わらず必要です。

 一方で、仕事の任せ方や指導の仕方は、一人ひとりの状況に合わせて変えるべきなのです。

 さらに、同じ社員でも、新しい業務に挑戦するときには具体的な指導が必要になり、慣れた業務では自由に任せたほうが力を発揮する場合があります。

 つまり、部下を一度だけ分類して終わりにするのでもありません。

「この人は今、何ができて、何に困っているのか」

「どこまで任せれば、力を発揮できるのか」

 それを見極め、接し方を柔軟に変えていくことが、管理職の重要な仕事です。

 マネジメントにおける公平さとは、全員に同じことをすることではなく、一人ひとりが力を発揮できるようにすることです。

 もし、部下全員に同じ指導をしているなら、明日から少しだけ変えてみてください。

 その柔軟さこそが、部下の可能性を引き出すリーダーの条件なのです。