預金通帳を見て頭を抱える夫婦写真はイメージです Photo:PIXTA

「長く勤めれば退職金で報われる」――そんな日本企業の常識が崩れ始めている。勤続年数より能力や役職を重く見る制度が広がれば、40~50代の老後設計や転職の損得はどう変わるのか。退職金改革が会社員にもたらす影響を考える。(百年コンサルティングチーフエコノミスト 鈴木貴博)

生え抜き社員が損をする?
退職金の常識が崩れる

 三井住友信託銀行が勤続年数に応じて退職金・企業年金を増やす制度を廃止して、能力と役職を反映する仕組みに改める方針だと10月27日に日本経済新聞が報じました。

 大企業の終身雇用、年功序列は平成の30年間でかなり崩れてきた一方で、退職金については「長く勤めた人ほど有利」という制度が続いていました。

 今回の報道をうけて、この新制度が他の大企業にも広がりそうです。そうなった場合、日本の伝統的大企業(JTC)で働く40代社員の老後はどう変わるのでしょうか?

 JTCに新卒で入社して生涯同じ会社で働く日本人の割合は、転職が広がった現在でも約3分の1だと言われています。キャリアの途中で後輩に追い抜かれ、役職が上がらなくなった社員でも、定年までまじめに働けば相応の退職金が出るというのがこれまでの日本社会でした。

 今回の制度変更では、この層のうち能力や役職が伴わない社員の将来の退職金を減額する仕組みになります。その分は、転職組などこれまで勤続年齢が足りなかったことで退職金では報われなかった優秀層に再配分しようというのが制度改革の狙いだと考えられます。

 このような制度が広まった社会で有利になるのは、能力や役職を高く評価される人材です。

 これまでは証券や保険など専門分野が違う他業界から30代で転職した社員は、役職としては生え抜き組と同じ部長に就いて能力を発揮できたとしても、退職時点で損をする制度になっていました。

 それが解消されることで、新制度に移行した大企業にはより優秀な人材が転職を決断しやすくなるでしょう。

 実はこの制度、生え抜きで勤続年数が長い社員でも、能力があって活躍している人材にとってはメリットがあります。なぜなら能力と役職が評価されている間は会社に残ったほうが得だからです。

 つまりこの制度がもたらす変化をシンプルに解説すると、

若手でキャリアアップを狙う優秀人材は、大企業に転職しやすくなる
何度かの転職を経て40代で認められ高い役職についた人材は残留しやすくなる

 ということです。

 一方でこのような制度変更で割を食うのは、組織の中でそれほど評価されてこなかった生え抜き社員です。

 これまでは、たとえ役職があがらなくても退職金だけは相応に約束されてきました。それが今回の制度変更であてにできなくなってしまうのです。