優秀な社員を手本にするよう促すのは、部下の成長を願う上司にとって自然な行動かもしれません。しかし、良かれと思って伝えたその一言が、部下のやる気を奪ってしまうことがあります。外資系企業と日本企業で人事責任者を務め『冷えた組織を熱くする リーダーの切り札』を上梓した南和気氏が解説します。(構成/ダイヤモンド社書籍編集局)
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「あの人を見習って」が部下に響かない理由
「〇〇さんは今期調子がいいよね。ぜひ彼を見習って、もっと積極的にチャレンジしてみてほしい」
部下を励ますつもりで、こんな言葉をかけたことはないでしょうか。
上司としては、身近なロールモデルを示すことで、部下の成長意欲に火をつけたいと考えています。
しかし、言われた部下はどう感じるでしょうか。
「自分とは担当業務も経験も違うのに……」
「自分なりに頑張っているけれど、今の努力では足りないということ?」
そんなふうに受け止めるかもしれません。
実は、優秀な社員と比較して部下を励ますことは、逆効果になる場合があるのです。
「比較」が部下の努力を否定する
心理学には「社会的比較」という考え方があります。
人は自分の能力や成果を、ほかの人と比較して捉えることがあります。
しかし、上司がその比較を部下への指導に持ち込むときには、注意が必要です。
例えば、営業成績がトップの社員と業務改善を担当する社員では、求められる役割も成果も異なります。
前者は数字で結果を示しやすい一方、後者は他部署との調整や仕組みづくりなど、成果が見えるまでに時間がかかる仕事をしているかもしれません。
それなのに、「あの人のようにもっと結果を出して」と言われたら、自分の仕事を正当に評価してもらえていないと感じるでしょう。
さらに、比較された社員同士の関係にも、余計な競争意識や不信感が生まれる可能性があります。
上司が部下を成長させたいなら、他人との比較ではなく、その人自身の成果を見ることが重要です。
「他人」ではなく「事実」を褒める
では、どのように部下を励ませばよいのでしょうか。
大切なのは、本人が実際に成し遂げたことを、具体的な事実として伝えることです。
例えば、業務改善プロジェクトに取り組む部下に対してなら、
「他部署の担当者と粘り強く調整して、新しい運用ルールを合意できたね」
と伝えます。
さらに、
「これまで難しかった部門間の連携を実現できたことは、チームにとって大きな成果だと思う」
と、その仕事の価値を明確にします。
これなら、部下は「自分の仕事をきちんと見てもらえている」と感じやすくなります。
そのうえで、「次は、この仕組みをどう定着させるかに挑戦してほしい」と期待を伝えるのです。
ここで重要なのは、褒めて終わりにしないことです。
「何ができたのか」「それが組織にどう貢献したのか」「次に何を期待しているのか」まで伝えることで、部下は自分の成長の方向性を理解できます。
部下のやる気を引き出すのは「あなた自身への期待」
管理職は、部下にもっと成長してほしいと思うほど、つい優秀な社員を引き合いに出してしまうものです。
もちろん、他人の成功事例から学ぶこと自体は悪くありません。
問題なのは、経験や役割の違う相手を一方的な評価基準にしてしまうことです。
部下が求めているのは、「あの人のようになれ」という言葉ではなく、「自分のどんな強みが評価され、これから何を期待されているのか」という具体的なメッセージです。
次に部下を褒めるときは、誰かと比較するのではなく、本人が積み上げてきた成果に目を向けてみてください。
部下のやる気を引き出すのは、他人との比較ではなく、「あなたの仕事を見ている」という上司の姿勢なのです。





