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インキュベーションの虚と実

“起業ありきで多産多死”の現状を打破する
異色メンター・小澤隆生のインキュベート法

本荘修二 [新事業コンサルタント]
【第34回】 2013年9月2日
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 小澤氏と岸田氏の関係は、創業後に若干の変化があった。岸田氏のやることに土足で踏み込むことはせず、必要な時に飛んでくるスタイルで、小澤氏は岸田氏に経営者として自由にやらせた。

 岸田氏は「常に小澤さんが側にいると頼ってしまうから、『基本的に経営は任せた、なんかあれば口を出す』という関係がよかった」と言う。大きな意思決定のときに相談するという形だ。

 実際、岸田氏には、弁当屋だけでなく、いくつも起業のアイデアが投げられた。実は、古川氏より先にハウツーサイトのアイデアを投げられていたのは岸田氏だった。だが、岸田氏は、自分のやる事業ではないとパスしたという。

 弁当販売のアイデアについて、「軽い気持ちだったのだろう」(岸田氏)と言うものの、小澤氏が近くの弁当屋の混雑ぶりに問題意識を持っていたからこそ、レストラン事業は無理と悩んでいた岸田氏にアドバイスできたのだ。小澤氏はメンターとして、面白そうなテーマを常に考え、あたためている。

小澤氏が果たした
4つの重要な役割

 ここで、小澤氏の役割を整理してみたい。筆者は大きく4つあったと考えている。nanapiのケースをもとに説明しよう。

 まず、戦略の構築だ。「少ない記事でトラフィックを何倍にもできないか」などと古川氏らがアイデアを言うと、「コンテンツの量がハウツーデータベースの命だ」と小澤氏は首尾一貫して唱えたという。「こちらが迷ったとき、小澤さんが一本筋を通してくれるから、やりやすかった」と古川氏は言う。 

 次に、経営者としての目線を上げることだ。古川氏ら経営陣は「ゆくゆくは会社が10億円で売れればいい」という発想に陥ってしまったときがあった。そのとき小澤氏は「1000億円、いやそれ以上を目指すんだ」と押し返したという。

 起業家はどうしても直近の状況ばかり見てしまう傾向がある。経営上、大きな決断をするとき、経営者には常に5年・10年以上先のスタンスが問われる。そのとき、近視眼的になると判断を誤ってしまう。小澤氏は高い目標を立て、社長や会社はどうあるべきかを考えろと、常に起業家たちを戒めていたという。古川氏は「nanapi成長のためにこの助言は大きかった」と言う。

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本荘修二

新事業を中心に、日米の大企業・ベンチャー・投資家等のアドバイザーを務める。多摩大学(MBA)客員教授。Net Service Ventures、500 Startups、Founder Institute、始動Next Innovator、福岡県他の起業家メンター。BCG東京、米CSC、CSK/セガ・グループ大川会長付、投資育成会社General Atlantic日本代表などを経て、現在に至る。「エコシステム・マーケティング」など著書多数。訳書に『ザッポス伝説』(ダイヤモンド社))、連載に「インキュベーションの虚と実」「垣根を超える力」などがある。


インキュベーションの虚と実

今、アメリカでは“スタートアップ”と呼ばれる、ベンチャー企業が次々と生まれている。なぜなら、そうした勢いある起業家たちを育てる土壌が整っており、インキュベーターも多く、なにより、チャレンジを支援する仕組みが存在するからだ。一方の日本はどうなのだろうか。日米のベンチャー界の環境の変化や最新のトレンドについて、25年にわたってベンチャー界に身を置いてきた本荘修二氏が解説する。また日本でベンチャーが育ちにくいと言われる背景を明らかにし、改善するための処方箋も提示する。

「インキュベーションの虚と実」

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