サブプライムローン問題に端を発した米経済危機が、米証券大手ベアー・スターンズの破綻と、外国為替市場におけるドル暴落を招き、世界的な恐慌リスクが懸念される異常事態の中で、福田康夫首相は、「通貨の番人」である日銀総裁を空席にする大失政を犯した。
この失政で浮かび上がったのが、官邸の機能不全に加えて、金融政策の支配を目論む財務官僚たちと首相との間の主従逆転という別の危機の存在だ。彼ら財務官僚こそ、武藤敏郎日銀副総裁の総裁昇格案が参議院で否決されたにもかかわらず、同氏と同じ財務事務次官出身の田波耕治国際協力銀行総裁を日銀総裁候補にゴリ押しした張本人である。
世界経済の行方や庶民生活を顧みようとしない官僚支配の前には、参議院の「数の力」を誇示したがった未熟な最大野党・民主党の罪さえ小さく霞んで見えてしまう。
民主党を恫喝?
もう一つの日銀法改正案
17日の夜、民主党のある有力幹部から電話がかかってきた。同党が武藤副総裁の昇格と福井俊夫日銀総裁の続投という2つの日銀人事を巡る政府案を拒否したことに対して、政府はどういう対応を打ち出してくるのか、その対応に関する情報がもたらされたという。さっそく詳しく聞くと、この幹部は、
「政府の対応は許せない。我々民主党にすべての責任を転嫁し、我々こそが元凶であるかのように演出しようとしている。そんな演出を真に受けるマスコミもマスコミだ。この問題の真の責任者は、財務官僚たちだ。
官僚たちは、福田首相を動かし、日銀法を改正しようと目論んでいる。日銀総裁人事について、衆議院の議決の優越を定めて、政府予算と同じように強行採決をできる仕組みに改めるつもりらしい。すべては、武藤総裁実現への拘りが成せるワザなのだ。だが、実現は早くても6月半ばになる。それまで日銀総裁ポストは空席だ。その責任をわが党に、押し付けるつもりだ」
実際には、この日銀法改正案は、「幻」に終わった。この夜、民主党幹部への恫喝に使われただけで、役割を終えたのだ。この案が福田首相周辺で燻り続けているとの見方もあるが、与党内部にさえ「解散・総選挙をせずに、衆議院の3分の2以上という議席のパワーを乱用することは許されない」との声があり、再浮上することはないとみてよさそうだ。