この時、主催者から与えられた課題は「東ティモールの社会的課題を解決するために何ができるのか」だ。東ティモールでは、国民の半数以上が1日1ドル以下、7割以上が2ドル以下の収入で生活していた。現地にある問題を解決するためのビジネスプラン策定にあたり、フィールド調査にも参加した久住さんは「ココナッツで酒を作る」というアイディアが生まれたきっかけを、次のように説明する。

「現地のNGOの方からは、現地にある資源を使って現地で作れるものでなくてはいけないということを、口を酸っぱくして言われました。で、歩いていたら、道端にたくさんヤシの実が落ちていたんですね。それと、最終日に現地の人と食事をしながら語り合う時間があったのですが、その時、彼らに『どんな仕事がしたいの?』って聞いたら、『お酒を作りたい』と言うんですよ。それでまあ、いろいろと考えていくうちに、ココナッツとお酒がなんとなく結びついたという訳なんです」

 久住さんはチーム最年長の52歳である。

最優秀賞を獲得したものの、
「さて、どうすれば実現できるのか……」

 久住さんが現地で目撃したように、東ティモールを含む東南アジアはヤシの生息地帯である。現地では、パーム油やナタデココなどそれを原材料とする加工品も数多く生産されている。しかし、多くは単価の安い商品で、必ずしも現地で暮らす人々の収入を上げることにはつながっていなかった。

 そこで、メンバーはまず、現地の人たちが日常的にヤシで酒を作っている点に注目した。ヤシの芽(花序)を切ると、そこから樹液が流れ出る。流れ出た樹液を容器に詰めて2日間ほど自然発酵させると酒ができるのだ。

「雇用のない場所に雇用を作る」目的に照らし合わせて考えると、酒は魅力的な高付加価値商品に思えた。特に、道端に放置され、捨てられてしまうココナッツを原料にすれば、その価値は最大で10倍以上にも膨らむ。酒造りにはきれいな水が欠かせないものの、幸いなことに、ココナッツには多くの水分がすでに含まれており、中は無菌状態である。

 特製のキットを使って実に穴を開け、その中で醸造酒を製造すれば、雑菌の繁殖を防ぐことができる。加えて、ココナッツの実をそのまま容器に使えば商品としての魅力も増す、とメンバーは考えた。

 彼らはまず、ココナッツに穴を開けて醸造酒を作るための特製キットをデザインした。そのキットの生産と酒の販売を通じて現地に雇用を生み出すためのプランを考えたのである。

 彼らのアイディアは見事、コンテストで最優秀賞を獲得。だが、本当に難しかったのはそれからだ。