ビジネスに革新をもたらすものとしてイノベーションの必要性は強く認識されていますが、体系だった方法論は今までないとされてきました。しかし実際には、ビジネス現場の限られた時間の中で効果的に思考することによって、業界の常識を打ち破る製品やサービスをいくつも生み出すことが可能です。

「イノベーションは意図的に起こせる」

 私は過去10年以上にわたり、アメリカのデザインイノベーションコンサルティング会社「Ziba」の戦略ディレクターとして、グローバル企業における様々な分野のイノベーションを数多く陰でリードしてきました。今は誰もが使っているUSBフラッシュメモリやイントラネット、あるいはマイナスイオンドライヤーなどは私がコンセプトを生み出したものの一部です。

 どうして一人の人間が異なる分野でこのようなイノベーションを繰り返せるのか。

 答えは、イノベーションを生むための方法論があるからです。本連載ではこの方法論DFW (Dynamic Frame Working) について、皆さんにご紹介したいと思います。

 DFWは、目的・思考範囲・切り口を動的かつ適切にとらえ直すことによって、ビジネス・テクノロジー・コンシューマに新たなパラダイムをもたらすための方法論です。非連続的な会社の成長を生むような新たな製品/サービスを創り出す際の作法とも言えます。この考え方について、いくつかの実例を元に紹介していきます。

 そもそも、ビジネスの現場でイノベーションはなぜ難しいのでしょうか。

 イノベーションは3つの特徴を持っています。一つめは、something new。それが「見たことも聞いたこともない新しいもの」であること。二つめは、doable。それが「実行可能なもの」であること。三つめは、controversial、すなわちそれが「議論を呼ぶもの」であることなのですが、これら条件のうち最後がもっとも重要で、かつ曲者です。

 イノベーティブなアイデアというのは不確実性が高く、実行したときに何が起きるか分からないから、「売上の見込みは?」と経営者が質問したときに、売れると言う人もいるし売れないと言う人も出てくる。これこそが合議制を採用する大企業でイノベーションが生まれにくい理由のひとつでもあります。